本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

書籍・雑誌

『夜』エリ・ヴィーゼル著、村上光彦 訳

『夜』 エリ・ヴィーゼル著 村上光彦訳 みすず書房 2,940円 ナチス・ドイツによるユダヤ人、ロマほかの絶滅のための強制・絶滅収容所、アウシュヴィッツ収容所。ポーランドのオシフィエンチムにかつてあった。数あるナチス・ドイツの収容所のなかでも人類の…

『パリ 地下都市の歴史』ギュンター・リアー/オリヴィエ・ファイ著、古川まり訳

『パリ 地下都市の歴史』 ギュンター・リアー / オリヴィエ・ファイ著 古川まり訳 東洋書林 3,990円 「花の都」と枕詞がつく都市パリ。2,500年もの歴史のあるパリは名所がたくさん。誰もが一度は訪れたいと思う街だ。しかし、その地下には知られていない世…

『よみがえれ! 夢の国アイスランド 世界を救うアイデアがここから生まれる』アンドリ・S・マグナソン著 森内 薫訳

『よみがえれ!夢の国アイスランド―世界を救うアイデアがここから生まれる (地球の未来を考える)』 アンドリ・S・マグナソン著 森内 薫訳 NHK出版 1,785円 2008年の金融破綻で初めてアイスランドを知った人もいるだろう。 アイスランドは北大西洋に浮かぶ小さ…

『書肆ユリイカの本』田中 栞著

『書肆ユリイカの本』 田中 栞著 青土社 2,520円 西洋には本の装丁を凝って美しく作る伝統がある。日本の出版社、書肆ユリイカの作った本は、装丁の美しさで一世を風靡した。編集者、伊達得夫が興した1947年から彼が没した1961年までのわずか14年の間に、数…

『ラウィーニア』アーシュラ・K・ル=グウィン著、谷垣暁美訳

『ラウィーニア』 アーシュラ・K・ル=グウィン著 谷垣暁美訳 河出書房新社、2,310円 ローマ以前の遠い過去のイタリア。ラティウムの王女ラウィーニアは一族の聖地で、はるか未来の詩人ウェルギリウスの幻影と出会う。ウェルギリウスは告げる。遠いトロイア…

『子どもたちに語るヨーロッパ史』ジャック・ル・ゴフ著、前田耕作監訳、川崎万里訳

『子どもたちに語るヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)』 ジャック・ル・ゴフ著 前田耕作監訳、川崎万里訳 筑摩書房、1,155円 ジャック・ル・ゴフはフランスの歴史の大家。社会学、経済学、人類学などの考えを取り入れ時代の民衆の心にせまる歴史研究をめざすア…

『かくして冥王星は降格された 太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて』ニール・ドグラース・タイソン著、吉田三千世訳

『かくして冥王星は降格された―太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて』 ニール・ドグラース・タイソン著 吉田三千世訳 早川書房 2,100円 最初に学校で習ったとき、太陽系は、太陽と月と9つの惑星「水金地火木土天海冥」だった。ところが2006年8月、国際天…

『第七官界彷徨』尾崎 翠著

『第七官界彷徨 (河出文庫)』 尾崎 翠著 河出書房新社 651円 尾崎翠(おさきみどり)は長い間、忘れられた作家だった。1970年代から見直され、全集や選集が発行された。今回、代表作『第七官界彷徨』が初めて一本立てで文庫化された。 尾崎翠とは誰か。1896…

『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界 ムーミントロールの誕生』冨原眞弓著

『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生』 冨原眞弓著 青土社 3,990円 ムーミンはカバではないことは、もう誰しもおわかりだろう。ムーミンはフィンランドの作家で画家のトーヴェ・ヤンソンが、北欧の妖精トロールをヒントに生み出した…

『ガルシア・マルケスひとつ話』書肆マコンド著

『ガルシア・マルケスひとつ話』 書肆マコンド著 エディマン 3,360円 この本は作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの世界を探求したもの。こむずかしい批評ではない。どこから読んでもおもしろいガルシア=マルケス百科だ。 ガルシア=マルケスの小説『百年…

『死の海を泳いで スーザン・ソンタグ最後の日々』デイヴィッド・リーフ著、上岡信雄訳

『死の海を泳いで―スーザン・ソンタグ最期の日々』 デイヴィッド・リーフ著 上岡信雄訳 岩波書店、1,890円 スーザン・ソンタグはアメリカで批評、小説、エッセイなど幅広く輝かしい活躍をした。代表作に『隠喩としての病い』『写真論』『他者の苦痛へのまな…

『ソングライン』ブルース・チャトウィン著、北田絵里子訳、石川直樹 写真・解説

『ソングライン (series on the move) (series on the move)』 ブルース・チャトウィン著 北田絵里子訳 石川直樹 写真・解説 英治出版、2,940円 これは旅の本。観光や計画的な旅行の本ではない。旅する人生についての本だ。 著者ブルース・チャトウィンはイ…

『根をもつこと』シモーヌ・ヴェーユ著、山崎庸一郎訳

『根をもつこと』 シモーヌ・ヴェーユ著 山崎庸一郎訳 春秋社 2,625円 この本『根をもつこと』は『シモーヌ・ヴェーユ著作集』の第5巻を新装版にしたもの。長い間入手が困難だった。 シモーヌ・ヴェーユはフランスの思想家。日本語では「ヴェイユ」と表記さ…

『アラブ、祈りとしての文学』岡 真理著

『アラブ、祈りとしての文学』 岡 真理著 みすず書房 2,940円 かつてサルトルは、アフリカで子どもたちが飢えて死んでいるのに文学は何ができるか、と問うた。現代アラブ文学の研究者である著者、岡真理もこの問いに直面している。パレスチナでパレスチナ人…

『『話の話』の話 アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』クレア・キッソン著、小原信利訳、ユーリー・ノルシュテイン跋

『『話の話』の話―アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』 クレア・キッソン著、小原信利訳 ユーリー・ノルシュテイン跋 未知谷、3,150円 膨大な数の絵によって、絵を動いているように見せる「動画」すなわち「アニメーション」。その動く絵を描く人を…

『サンパウロへのサウダージ』クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著、今福龍太訳

『サンパウロへのサウダージ』 クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著 今福龍太訳 みすず書房 4,200円 2008年11月で100歳になった学者クロード・レヴィ=ストロース。1960年代、フランスにて構造主義をかかげて新たな民族学をうちたてた。構造主義は現代…

『図書館 愛書家の楽園』アルベルト・マングェル著、野中邦子訳

『図書館 愛書家の楽園』 アルベルト・マングェル著 野中邦子訳 白水社 3,570円 日本語で図書館と訳される英語Libraryは、ただ図書館をさすだけでなく、本を集めてある状態、または場所のことも意味する。書斎や書庫、鞄に入った数冊の本、コロンビアでロバ…

『阿部謹也 最初の授業・最後の授業 附・追悼の記録』阿部謹也追悼集刊行の会編

『阿部謹也最初の授業・最後の授業―附・追悼の記録 』 阿部謹也追悼集刊行の会編 日本エディタースクール出版部 2,520円 歴史家、阿部謹也氏は日本の歴史学界の大きな星だった。ドイツ中世史を中心に幅広く歴史を見つめてきた。1935年生まれ。一橋大学で長く…

『〈不在者〉たちのイスラエル 占領文化とパレスチナ』田浪亜央江著

『〈不在者〉たちのイスラエル―占領文化とパレスチナ』 田浪亜央江著 インパクト出版会 2,520円 1948年5月、イスラエルは独立を宣言した。ユダヤ人にとって喜びのその日は、パレスチナに住んでいたアラブ人にとってナクバ(大災厄)の日となった。ユダヤ人の…

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』大西成明著

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』 大西成明著 協同医書出版社・編集協力 ランダムハウス講談社・発行、2,940円 リハビリテーションとは「本来あるべき状態への回復、再生」などの意味がある。病気で失われた感覚や身体を取り戻す。ま…

『死に魅入られた人びと ソ連崩壊と自殺者の記録』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、松本妙子訳

『死に魅入られた人びと―ソ連崩壊と自殺者の記録』 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著 松本妙子訳 群像社、2,100円 1991年、ソ連が崩壊した。共産党一党独裁下の社会主義体制と15の共和国からなる連邦体制は崩れ去った。国民は資本主義という未知の体制…

『鉄腕ゲッツ行状記 ある盗賊騎士の回想録』ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著、藤川芳朗訳

『鉄腕ゲッツ行状記―ある盗賊騎士の回想録』 ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著 藤川芳朗訳 白水社、2,625円 「騎士」といえば弱きを助け悪をくじく、というイメージが離れない。だが中世も終わる頃、騎士道華やかなりし時代は遠くなった。ゲッツ・フォン・…

『東アジアに新しい「本の道」をつくる』『本とコンピュータ』編集室編

『東アジアに新しい「本の道」をつくる―東アジア共同出版(日本語版)』 『本とコンピュータ』編集室編 トランスアート 2,000円 日本、朝鮮半島、中国、台湾はかつて漢字を母字としており、やわらかな紙に木版印刷した本が行き来していた。これをブックロード…

『快楽の本棚 言葉から自由になるための読書案内』津島佑子著

『快楽の本棚―言葉から自由になるための読書案内 (中公新書)』 津島佑子著 中央公論新社 798円 有名な小説家だったという父親をおぼえていない子ども。教育ママだった母親は、子どもを父親のいた文学の世界に近づけまいとした。しかし子どもは、そんな危険で…

『中世ヨーロッパの書物 修道院出版の九○○年』箕輪成男著

『中世ヨーロッパの書物―修道院出版の九〇〇年』 箕輪成男著 出版ニュース社 3,150円 世界的ベストセラーになったウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』は中世北イタリアの修道院が舞台。そこはキリスト教世界最大の蔵書を持ち、また修道士が写本を筆写、…

『ぼくが見てきた戦争と平和』長倉洋海著

『ぼくが見てきた戦争と平和』 長倉洋海著 バジリコ 1,890円 フォト・ジャーナリスト長倉洋海氏の写真で心惹かれるのは、人々の笑顔だ。屈強なイスラム戦士が、苦境にある人々が、笑顔をはじけさせている。この写真を撮っている人も笑顔をうかべているんだろ…

『百年の愚行』小崎哲哉ほか編

『百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]』 小崎哲哉ほか編 紀伊国屋書店 2,520円 1枚の写真。海辺で抱き合う恋人たち。その足下はごみだらけ。だが、彼らはそれに気づかない。今の地球と人類を象徴するような光景だ。 この本は、そんな人類の愚…

『酒づくりの民族誌 増補―世界の秘酒・珍酒』山本紀夫編著

『酒づくりの民族誌 増補―世界の秘酒・珍酒』 山本紀夫編著 八坂書房 2,520円 酒はおいしい。酒は楽しい。味わうは快感。酩酊は極楽。 この本はワインやウイスキーなどの高級酒ではなく、世界の民族の地酒、主に家でつくる酒、その数30以上を取り上げる。そ…

『女子の古本屋』岡崎武志著

『女子の古本屋』 岡崎武志著 筑摩書房 1,470円 女性店主の古本屋さんがある。古本屋はこれまで「女には向かない職業」とされてきたので、ワクワクである。この本は13店の古本屋とそこの女性店主を紹介している。 20から50代の方たちだが、皆さんそれぞれ何…

『無国籍』陳 天璽著

『無国籍』 陳 天璽著 新潮社 1,470円 著者、陳天璽はある日、在日台湾華僑の両親といっしょに台湾を訪れた。しかし日本で生まれ育った彼女だけ、ビザが無い、と入国を拒否された。しかたなく日本へ戻ると、再入国許可の期限切れ、とまた入国を拒否された。…