本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民』上橋菜穂子 著

『隣のアボリジニ 小さな町に暮らす先住民 (ちくま文庫)』 上橋菜穂子 著 筑摩書房 735円 オーストラリア先住民族、アボリジニ(英語で「原住民」という意味)と呼ばれる人々は、現在オーストラリア人口の2パーセントだけだ。かつて600以上の地域集団と200以…

電子書籍は紙の本を駆逐するか

「電子書籍元年」と言われたのは今年で3度目らしい。昔のワープロソフトには電子ブックリーダーがついていたのもあったし。 すでに学術分野はオンラインジャーナルで英文論文を読むのが常識。いまさら電子書籍元年もない。だが一般書それも小説で電子書籍に…

『寡黙なる巨人』多田富雄 著

『寡黙なる巨人 (集英社文庫)』 多田富雄著 集英社 単行本 1,575円 今年4月、免疫学の権威、多田富雄氏が前立腺がんで亡くなった。享年76歳。 実は多田氏は前に1回「死んで」いる。2001年、脳梗塞で倒れたのだ。死の国を数日さまよったあげく、目を覚ました…

『巡礼コメディ日記 僕のサンティアゴ巡礼の道』

『巡礼コメディ旅日記――僕のサンティアゴ巡礼の道』 ハーペイ・カーケリング 著 猪俣和夫 訳 みすず書房 2,730円 ハーペイ・カーケリングはドイツのコメディアン。40代も近づき、病気もするようになってきた。そのときふと思ったのは「神様っているのかな」…

『カントリー・オブ・マイ・スカル 南アフリカ真実和解委員会〈虹の国〉の苦悩』アンキー・クロッホ著、山下渉登 訳、峯 陽一 解説

『カントリー・オブ・マイ・スカル―南アフリカ真実和解委員会“虹の国”の苦悩』 アンキー・クロッホ著 山下渉登 訳、峯 陽一 解説 現代企画室、2,940円 2010年のサッカーワールドカップが南アフリカで開催されたなんて、20年ほど前だったら想像できなかっただ…

『「死の舞踏」への旅 踊る骸骨たちをたずねて』小池寿子 著

『「死の舞踏」への旅―踊る骸骨たちをたずねて』 小池寿子著 中央公論社 2,310円 生きていれば死は日常。滅びは生活の一部。この忘れがちだがあたりまえなことを、人々が常に考えていた時代がヨーロッパにあった。「メメント・モリ(死を思え)」の言葉とと…

『ハーモニー』伊藤 計劃 著

『ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)』 伊藤 計劃 著 早川書房 1,680円 伊藤計劃(いとう けいかく)はSF作家としてわずか1年半ほどしか生きなかった。1974年に生まれ2009年に34歳で肺がんのため亡くなった。残した長編小説は『虐殺器官』(早…

『戦禍のアフガニスタンを犬と歩く』ローリー・スチュワート 著、高月 園子 訳

『戦禍のアフガニスタンを犬と歩く』 ローリー・スチュワート著 高月園子訳 白水社 2,940円 「なぜアフガニスタンを歩いて横断したのかと訊かれても、あまりうまく説明できない。たぶん、それが冒険だから、というのが理由だろう。」とこの本の著者スコット…

『夜』エリ・ヴィーゼル著、村上光彦 訳

『夜』 エリ・ヴィーゼル著 村上光彦訳 みすず書房 2,940円 ナチス・ドイツによるユダヤ人、ロマほかの絶滅のための強制・絶滅収容所、アウシュヴィッツ収容所。ポーランドのオシフィエンチムにかつてあった。数あるナチス・ドイツの収容所のなかでも人類の…

『本は読めないものだから心配するな』管 啓次郎 著

『本は読めないものだから心配するな』 管 啓次郎著 左右社 1,890円 「本は読めないものだから心配するな。」 この本を読め、この本はこう読め、成功する読書のすすめなどと、読書をしていかに得をするかというような本ばかり出まわるなかで、こう言われると…

『パリ 地下都市の歴史』ギュンター・リアー/オリヴィエ・ファイ著、古川まり訳

『パリ 地下都市の歴史』 ギュンター・リアー / オリヴィエ・ファイ著 古川まり訳 東洋書林 3,990円 「花の都」と枕詞がつく都市パリ。2,500年もの歴史のあるパリは名所がたくさん。誰もが一度は訪れたいと思う街だ。しかし、その地下には知られていない世…

『よみがえれ! 夢の国アイスランド 世界を救うアイデアがここから生まれる』アンドリ・S・マグナソン著 森内 薫訳

『よみがえれ!夢の国アイスランド―世界を救うアイデアがここから生まれる (地球の未来を考える)』 アンドリ・S・マグナソン著 森内 薫訳 NHK出版 1,785円 2008年の金融破綻で初めてアイスランドを知った人もいるだろう。 アイスランドは北大西洋に浮かぶ小さ…

『書肆ユリイカの本』田中 栞著

『書肆ユリイカの本』 田中 栞著 青土社 2,520円 西洋には本の装丁を凝って美しく作る伝統がある。日本の出版社、書肆ユリイカの作った本は、装丁の美しさで一世を風靡した。編集者、伊達得夫が興した1947年から彼が没した1961年までのわずか14年の間に、数…

本は自由に読めばいい

最近、子どもに読書が奨励されている。朝の10分間読書など、授業前に本を読ませる。自分で選んだ本でいい。そうすると静かに授業に入れるそうだ。私だったらたった10分しか本を読めないで続きは明日、なんて冗談じゃない。授業中でも読んでしまうだろう。国…

『ラウィーニア』アーシュラ・K・ル=グウィン著、谷垣暁美訳

『ラウィーニア』 アーシュラ・K・ル=グウィン著 谷垣暁美訳 河出書房新社、2,310円 ローマ以前の遠い過去のイタリア。ラティウムの王女ラウィーニアは一族の聖地で、はるか未来の詩人ウェルギリウスの幻影と出会う。ウェルギリウスは告げる。遠いトロイア…

『子どもたちに語るヨーロッパ史』ジャック・ル・ゴフ著、前田耕作監訳、川崎万里訳

『子どもたちに語るヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)』 ジャック・ル・ゴフ著 前田耕作監訳、川崎万里訳 筑摩書房、1,155円 ジャック・ル・ゴフはフランスの歴史の大家。社会学、経済学、人類学などの考えを取り入れ時代の民衆の心にせまる歴史研究をめざすア…

『かくして冥王星は降格された 太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて』ニール・ドグラース・タイソン著、吉田三千世訳

『かくして冥王星は降格された―太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて』 ニール・ドグラース・タイソン著 吉田三千世訳 早川書房 2,100円 最初に学校で習ったとき、太陽系は、太陽と月と9つの惑星「水金地火木土天海冥」だった。ところが2006年8月、国際天…

『第七官界彷徨』尾崎 翠著

『第七官界彷徨 (河出文庫)』 尾崎 翠著 河出書房新社 651円 尾崎翠(おさきみどり)は長い間、忘れられた作家だった。1970年代から見直され、全集や選集が発行された。今回、代表作『第七官界彷徨』が初めて一本立てで文庫化された。 尾崎翠とは誰か。1896…

『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界 ムーミントロールの誕生』冨原眞弓著

『トーヴェ・ヤンソンとガルムの世界―ムーミントロールの誕生』 冨原眞弓著 青土社 3,990円 ムーミンはカバではないことは、もう誰しもおわかりだろう。ムーミンはフィンランドの作家で画家のトーヴェ・ヤンソンが、北欧の妖精トロールをヒントに生み出した…

『ガルシア・マルケスひとつ話』書肆マコンド著

『ガルシア・マルケスひとつ話』 書肆マコンド著 エディマン 3,360円 この本は作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの世界を探求したもの。こむずかしい批評ではない。どこから読んでもおもしろいガルシア=マルケス百科だ。 ガルシア=マルケスの小説『百年…

『死の海を泳いで スーザン・ソンタグ最後の日々』デイヴィッド・リーフ著、上岡信雄訳

『死の海を泳いで―スーザン・ソンタグ最期の日々』 デイヴィッド・リーフ著 上岡信雄訳 岩波書店、1,890円 スーザン・ソンタグはアメリカで批評、小説、エッセイなど幅広く輝かしい活躍をした。代表作に『隠喩としての病い』『写真論』『他者の苦痛へのまな…

『ソングライン』ブルース・チャトウィン著、北田絵里子訳、石川直樹 写真・解説

『ソングライン (series on the move) (series on the move)』 ブルース・チャトウィン著 北田絵里子訳 石川直樹 写真・解説 英治出版、2,940円 これは旅の本。観光や計画的な旅行の本ではない。旅する人生についての本だ。 著者ブルース・チャトウィンはイ…

『根をもつこと』シモーヌ・ヴェーユ著、山崎庸一郎訳

『根をもつこと』 シモーヌ・ヴェーユ著 山崎庸一郎訳 春秋社 2,625円 この本『根をもつこと』は『シモーヌ・ヴェーユ著作集』の第5巻を新装版にしたもの。長い間入手が困難だった。 シモーヌ・ヴェーユはフランスの思想家。日本語では「ヴェイユ」と表記さ…

『アラブ、祈りとしての文学』岡 真理著

『アラブ、祈りとしての文学』 岡 真理著 みすず書房 2,940円 かつてサルトルは、アフリカで子どもたちが飢えて死んでいるのに文学は何ができるか、と問うた。現代アラブ文学の研究者である著者、岡真理もこの問いに直面している。パレスチナでパレスチナ人…

『『話の話』の話 アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』クレア・キッソン著、小原信利訳、ユーリー・ノルシュテイン跋

『『話の話』の話―アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』 クレア・キッソン著、小原信利訳 ユーリー・ノルシュテイン跋 未知谷、3,150円 膨大な数の絵によって、絵を動いているように見せる「動画」すなわち「アニメーション」。その動く絵を描く人を…

『サンパウロへのサウダージ』クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著、今福龍太訳

『サンパウロへのサウダージ』 クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著 今福龍太訳 みすず書房 4,200円 2008年11月で100歳になった学者クロード・レヴィ=ストロース。1960年代、フランスにて構造主義をかかげて新たな民族学をうちたてた。構造主義は現代…

『図書館 愛書家の楽園』アルベルト・マングェル著、野中邦子訳

『図書館 愛書家の楽園』 アルベルト・マングェル著 野中邦子訳 白水社 3,570円 日本語で図書館と訳される英語Libraryは、ただ図書館をさすだけでなく、本を集めてある状態、または場所のことも意味する。書斎や書庫、鞄に入った数冊の本、コロンビアでロバ…

『阿部謹也 最初の授業・最後の授業 附・追悼の記録』阿部謹也追悼集刊行の会編

『阿部謹也最初の授業・最後の授業―附・追悼の記録 』 阿部謹也追悼集刊行の会編 日本エディタースクール出版部 2,520円 歴史家、阿部謹也氏は日本の歴史学界の大きな星だった。ドイツ中世史を中心に幅広く歴史を見つめてきた。1935年生まれ。一橋大学で長く…

『〈不在者〉たちのイスラエル 占領文化とパレスチナ』田浪亜央江著

『〈不在者〉たちのイスラエル―占領文化とパレスチナ』 田浪亜央江著 インパクト出版会 2,520円 1948年5月、イスラエルは独立を宣言した。ユダヤ人にとって喜びのその日は、パレスチナに住んでいたアラブ人にとってナクバ(大災厄)の日となった。ユダヤ人の…

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』大西成明著

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』 大西成明著 協同医書出版社・編集協力 ランダムハウス講談社・発行、2,940円 リハビリテーションとは「本来あるべき状態への回復、再生」などの意味がある。病気で失われた感覚や身体を取り戻す。ま…