本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『ムーミンのふたつの顔』冨原眞弓著

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冨原眞弓著
筑摩書房
1,575円

 

 ムーミンはカバではない。北欧の昔話に出てくる妖怪「トロール」をもとに、フィンランドの作家で画家でもあるトーベ・ヤンソンが創作したキャラクターだ。素朴なムーミン、冒険好きなムーミンパパ、しっかりもののムーミンママ、毒舌家のミイ、孤独を愛する旅人スナフキンなどと、彼らが住まう自由でおおらかなムーミン谷は、1945年にムーミン童話シリーズが発表されたときから今に至るまで、世界中で愛されてきた。
 ムーミンというと、日本では本のムーミン童話とアニメが有名だが、ヨーロッパでは1954年にイギリスの新聞に連載されたマンガ『ムーミン・コミックス』がムーミン人気の火付け役になった。ムーミンはさまざまな媒体で発表されたのだ。この本では『ムーミン・コミックス』とムーミンより後のトーベ・ヤンソン作品の訳者冨原眞弓が、ムーミンの持つさまざまな顔にせまる。
 『ムーミン・コミックス』はトーベ・ヤンソンと弟のラルスの共作だった。やがて連載のスケジュールに疲れたトーベはコミックスから手を引き、後半はラルス一人の作品となる。
 一方、日本ではアニメ『ムーミン』が1969年に放映され、子どもたちに大人気となった。しかし、あまりに現代風日本的にアレンジされたこのアニメは、トーベには気に入らなかった。しかしその後、再度アニメ化の企画が起き、トーベの綿密なチェックのもと1990年に『楽しいムーミン一家』が放映された。このアニメはフィンランドでも放映され、子どもたちに人気を得た。今のフィンランドの子どもは、ムーミンというとこのアニメを思い浮かべるという。
 ムーミンはいろいろなかたちで作られた。そして、世界中の人がそれぞれ自分たちのやり方で自分のムーミンとその世界を愛しているのだ。
(掲載:『望星』2005年11月号、東海教育研究所)