本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『本棚の歴史』ヘンリー・ペトロスキー著、池田栄一訳

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本棚の歴史

ヘンリー・ペトロスキー著

池田栄一訳

白水社、3,150円

 自宅で本の置き場に困っている方も多いだろう。「本をどうやって置くか」「限られたスペースに、本を減らさずにどうやって収めるか」。本好きには悩ましい問題だ。

 この本は、「本をどうやって置くか」という問題に人類がいかに取り組んできたかということともに、本そのもの歴史も描いている。著者ペトロスキーは土木環境学、建築土木史の研究者。その著書『鉛筆と人間』『フォークの歯はなぜ四本になったか』『ゼムクリップから技術の世界が見える』などで、人間とモノの関わり合いの歴史に取り組んできた。今度は、進化する情報体「本」とそれを収納する脇役「本棚」の歴史を古代から現代に至るまで、読者に披露する。

 西洋の本は手書きのパピルスの巻物に始まる。ラベルをつけられ、棚に置かれていた。それが折り合わされて冊子の形になったのは、紀元前後だった。

 羊皮紙で作られるようになった本は、中世にはキリスト教修道院で書かれ、読まれ、保存された。本が神や知識の言葉を伝える宝物だった時代、重くてかさばる本は、箱にしまうか、机の上に平積みにするか、手前側の天板が下がった書見台に立てかけるかされた。そして貴重な本は紛失や盗難を防ぐため、鎖で机や書見台につながれた。

15世紀、活版印刷が発明され本の大量生産が可能になると、たくさんの本をいかに置くかが問題になった。こうして、現在のように本を立てて本棚に置くようになったのである。しかし本を鎖で本棚につなぐことは17世紀まで続いた。

 「本をどうやって置くか」と悩むのは本への愛情からだ。きっと、この本の著者も読者も、部屋に本が散乱しているだろう。本を愛する人が楽しめる本だ。

(掲載:『望星』2004年5月号、東海教育研究所)