『古本道場』
1,470円
「古本屋めぐりが趣味」という人は、たんなる「趣味は読書」な人とは違って、その道の上級者である。古本のなかから、自分にとって価値ある一冊を選び出すのだ。やがて古本の目利きになっていく。
さて、本をこよなく愛する作家角田光代は、古本の道をのぞいて見るべく、古本道を究めた書評家でフリーライターの岡崎武志、またの名を岡崎武之進の古本道場に入門した。この本は角田光代がその修行のなかで遭遇する、めくるめく古本の世界を描いたものだ。
師匠武之進の古本心得。自分がいいと思ったもの、好きなものが絶対一番。買いたいと思ったときに本はなし、積極的に何でも買おう。
獅子が我が子を千尋の谷につきおとすがごとく、師匠武之進から弟子角田へと次々を指令が与えられる。「王道の神保町で、子ども時代に愛読した本を探せ!」「古本屋の未来形、代官山、渋谷で本の見せ方を学べ!」かくて弟子角田は古本の世界を右往左往する。古本屋で有名な街なら古本のメッカ神保町、学生街早稲田、サブカルチャー発信地西荻窪。その他、意外な街の古本屋も訪れる。代官山、渋谷、東京駅、銀座、青山、田園調布、鎌倉などちょっと「お高い」イメージなところにも古本屋があるのだ。
そして弟子角田は発見する。古本屋はその街を映し出す。代官山ではおしゃれな雑貨屋のよう。鎌倉では静かな店内に鎌倉文士たちの小説がパラフィン紙をかけられてきちんを収まっている。本は、消費され、忘れられ、消えてしまう、無機質な物質ではなくて、体温のある生きものだ、と実感してほっとするのだ。人の住むところ、どこにでも本はある。
古本に興味を持つ人に、もってこいの入門書。古本屋めぐりって楽しいんだなと思わせる。
(掲載:『望星』2005年10月号、東海教育研究所)