
『
滝山コミューン一九七四
』
原 武史著
講談社、1,785円
1970年代に小学生だった人は、この本に懐かしさと苦さを味わうだろう。
著者
原武史は『
大正天皇』などの本で知られる
政治学者。1974年には東京都
東久留米市の滝山にある小学校の6年生だった。これは著者が、そのころ小学校で起きた「事件」を自分の記憶と級友や教師からの取材と教育界などの文献に基づいて書きおこしたものである。
その小学校の子どもたちは、ほとんどが
団地の中流サラリーマン家庭の子ばかりだった。そこへ若く理想に燃える一人の教師が赴任してきた。彼は
日教組のなかから生まれた
全国生活指導研究協議会、略して全生研の影響を受けていた。当時、全生研の掲げていた教育方針は、
集団主義によって子どもたちに民主的集団を作らせ民主主義に至らせるというものだった。つまり具体的な例ではこのようなものだ。クラスをいくつかの班に分け、1つの目標に向かって競争させる。そのなかで子どもたちは互いに議論し合い仲間意識を育てる。しかし競争でビリになった班にはクラス中から批判が浴びせられる。この教師の方針はクラスの子どもたちの母親にも支持された。
この教師の後押しによって彼のクラスから生徒会への立候補者が続出するようになった。原少年にとって学校は、みんなでひとつ、という思想を押しつける抑圧的なところになった。そして1974年の夏、6年生の林間学校では、
集団主義的班編成が全クラスに取り入れられることとなった。コミューンの確立である。
この本は
日教組を批判するものではない。当時の子どもたちは、一人の人間である自覚よりも集団のなかの一員である意識が求められた。だが美しい理想を掲げても、個人を抑圧して成る集団はおぞましい。教育とは、子どものためと唱いながら、結局、大人の都合で決まるのだ。
(掲載:『望星』2007年10月号、東海教育研究所)