本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

リバーベンドへ

 今回、紹介する本『バグダッド・バーニング』(2004年発刊)『いま、イラクを生きる』(2006年発刊)はイラク人女性「リバーベンド」がイラク戦争のさなか2003年からバグダッドで書いたブログを集めたものです。彼女が実在する人かどうかはわかりません。この書評は彼女へのお手紙です。

 2008年1月2日現在、あれからブログは2007年10月22日、彼女とその家族がシリアへ逃れたことを書いたところでとぎれています。彼女の無事を祈りつつ。

(日本語訳はhttp://www.geocities.jp/riverbendblog/

41e0fcnewdl_aa240__2

バグダッド・バーニング―イラク女性の占領下日記

リバーベンド著、リバーベンド・プロジェクト訳

アートン、1,575円

 

 親愛なるリバーベンド。お元気ですか。かの地はどんなにか大変でしょう。

 書店でこの本を見たとき、正直とまどいました。著者の素性がほとんど不明、この本は日記ブログ、リバーベンドとはハンドルネーム。本名も、素性のわからない人の本の情報なんて信用できるんだろうか、と思ってしまいました。

 あなたについての数少ない情報では、あなたはバグダッドに住む24歳のイラク女性。大学出のバイリンガルプログラマーとして働いていた。だが戦争の混迷の中でイスラム原理主義勢力が台頭してきて、一人で外に出る女性を攻撃するようになり会社を解雇された。そしてそれまでイラク女性は、ヒジャーブつまりイスラム教徒女性の髪を覆うベールをかぶることは公に強制されていなかったけど、安全上かぶるべきか悩んでいる、と。

 日々の暮らしも大変ですね。水の確保。相次ぐ停電。恐ろしいのは、強盗、武装勢力、そして米軍。近所の人や親戚や友人に降りかかる暴力と殺戮。

 インターネットで、あなたがブッシュ大統領と彼の政府を「何が解放よ」と、アメリカべったりのイラク統治評議会を「無能」と怒りに燃えて罵る。たちまち賛成と脅迫のメールが返ってくる。もう一つの戦争。そもそもリバーベンドって本当に存在するのか。どこかの政治団体のでっち上げではないのか。そんなことを言う人もいるでしょう。このイラク戦争にもたくさんの嘘があるでしょう。しかし重要なのは、リバーベンドが何者かということより、あなたの文章の内容であり、こういうことを書いて世界に配信する人がいる、という事実です。

 あなたが書き続けることを祈りつつ。(日本語訳はhttp://www.geocities.jp/riverbendblog/

(掲載:『望星』2005年1月号、東海教育研究所)

415eg1w63ql_aa240_

いま、イラクを生きる―バグダッド・バーニング〈2〉

リバーベンド著、リバーベンドブログ翻訳チーム訳

アートン、1,470円

 

 リバーベンド、また本で会えましたね。

2003年から始まったあなたのブログ「バグダッド・バーニング」がまだ続いているか心配でした。占領下のイラク市民の現状を伝えるあなたのブログとその本は、各国でさまざまなノンフィクションの賞を受けたそうですね。おめでとう。

 リバーベンドバグダッドに住む20代のイスラム教徒女性。海外で暮らした経験がある。戦争のあおりを受けて勤めていた会社をクビになり、現在は家族とともに戦争を生き延びるための雑事に追われる日々。身の危険を恐れて本名をださない。あなたについてわかるのは、あいかわらずこのくらい。本当に実在するのかもわからない。

 バグダッドは前にも増して酷い状態のようですね。1日数時間しか水道が使えず、水の確保がたいへん。電気も同じく数時間しか通じない。ガソリンの買い出しに長蛇の列。イラク産油国で戦前は水よりも安かったのに。「イラク治安部隊」を名乗るごろつきどもの凶行。突然市民の家に押し入り、家をめちゃめちゃにし、男性を殴り連行していく。そして米軍の占領。誤射、誤爆、強制連行は日常茶飯事。ファルージャでの虐殺。アブグレイブ収容所での虐待。傀儡政権下での国民投票ブッシュ大統領の再選。

 さらに。強まるイスラム原理主義のためこれまでアラブ諸国では自由な方だった女性の権利がどんどん弱くなっていること。スカーフなしではとがめられ、働くこともままならない。

 戦争前より良くなったことなんてひとつもない、米軍は出て行ってよ、と怒るリバーベンド。どうぞ怒りを忘れないでください。家の中でも外でもあふれる戦争のために絶望に囚われないで。あなたが怒り続けていることに、イラクの平和を願う世界中の人々はイラク人の強さを見るのだから。

(掲載:『望星』2006年11月号、東海教育研究所)