
『
書肆アクセスという本屋があった―神保町すずらん通り1976-2007
』
岡崎武志・
柴田信・安部甲:編著
発行:「
書肆アクセスの本」を
つくる会、発売:右文書院、1,200円
東京の
神田神保町の
靖国通りを脇道に入ると、
すずらん通りという小ぶりな通りがある。個性的な本屋が建ち並ぶ。そこに
書肆アクセスという本屋はあった。今はもうない。昨年11月に閉店した。たくさんの人に愛された本屋だった。
現在、本や雑誌は一般の流通ルートでは、一部の大手出版社のものしか普通の書店に並ばない。しかし、そういうルートの乗ることができないが、本や雑誌で独自の情報を発信している地方出版社、小規模出版社は多い。そうした本や雑誌を流通させるために、
地方・小出版流通センターが設立された。
書肆アクセスは、その小売・展示センターとして1976年にオープンした。
狭い店内には、東京で見ることのできない地方の歴史、自然などの本。詩、
民俗学、考古学、旅などのマニアックな本。タウン誌や趣味の
ミニコミ誌。普通の書店にはない品揃えの不思議な空間は、大勢の本好きな人を惹き寄せた。地方出版社や小規模出版社の人々も、よく訪ねてきた。そうした人々を
畠中理恵子店長とスタッフは温かく迎えた。
岡崎武志いわく「
書肆アクセスは旅人が憩う一本の木だった」。
だが経営は赤字となり、閉店が決まった。それを聞いた有志が「
書肆アクセスの本」を
つくる会を結成し、
書肆アクセスとの別れを悲しむ80人の寄稿と30人のメッセージをまとめた。それがこの本だ。それぞれの
書肆アクセスとの思い出を語る。みな
書肆アクセス閉店に心に穴が空いたような寂しさを味わっている。「私の“本好き”の一割くらいは『
書肆アクセス』でできていることを、誇りに思っています。」と店長とスタッフに感謝する、おなじみさん。
書肆アクセスが無くなる代わりに、その機能は
三省堂書店神保町本店4階の地方出版・小出版物コーナーに移される。でも、
すずらん通りの
書肆アクセスという小宇宙はもうない。確かにそこは
本の旅人が憩う大きな木だった。その木は切り倒されてしまった。
1997年から1990年と2005年の「
神田神保町路地裏マップ」が付録についている。
(掲載:『望星』2008年3月号、東海教育研究所に加筆)