本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『魂との出会い 写真家と社会学者の対話』大石芳野・鶴見和子著

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魂との出会い―写真家と社会学者の対話

大石芳野鶴見和子

藤原書店

3,150円

 鶴見和子氏、社会学者。西洋の「対立、伝統の破壊」の社会に対し、アジアの視点からの地域発展論「内発的発展論」で、「共生、伝統の継承」の社会を唱えた。柳田国男南方熊楠の研究から水俣病と社会の関連についての研究まで幅広く活躍。1995年に脳出血で左半身麻痺となりながらも執筆を続けていた。

 大石芳野氏、写真家。ニューギニアで原始の人々の取材が始まり。そして沖縄、ベトナムアフガニスタンコソボなどで戦争の傷跡に苦しむ人々を取材。代表作『パプア人 いま石器時代に生きる』『ベトナム凜と』など。弱い者、老人や女性、子どもに目を向けてきた。

 2003年、大石氏は鶴見氏の住まいを訪れた。2人は旧知の仲で、大石氏は鶴見氏の情熱的な生き方を尊敬してきた。この本は、この時の2人の対談集。

 大石氏の写真は、人のまなざしをとらえたものが多い。写される人の心が目に現れる瞬間をつかむ。つまり出会いだ。これは、鶴見氏が唱えたもう1つの理論「萃点(すいてん)」に通ずるものがある。人と人との縁が交差する点のことだ。

 鶴見氏「社会をいい方向に変えていくためには、人間の自立ということが一番大事な原点です。大石芳野さんは写真を通して一人一人の魂が現れるような写真を、一人一人について撮っている。」これは「内発的発展論」に通ずるものがあるかもしれない。「だからあなたの写真は歴史なのよ。歴史の積み重ねの、それぞれの層なのよ。」大石氏の写真が鶴見氏の言葉によって新たに姿を現し、2人の言葉が魂を持って交流する。

 鶴見氏はその3年後、亡くなった。鶴見氏の短歌。

 「ベトナムの子らの瞳凜と撮したる大石芳野の瞳は凜凜と」。

 強い意志を持つ2つの魂の対話は、希有な時間だったのだ。

(掲載:『望星』2008年4月号、東海教育研究所)