本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ沢渡 曜の書評ブログ

『無国籍』陳 天璽著

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無国籍

陳 天璽著

新潮社

1,470円

 

 著者、陳天璽はある日、在日台湾華僑の両親といっしょに台湾を訪れた。しかし日本で生まれ育った彼女だけ、ビザが無い、と入国を拒否された。しかたなく日本へ戻ると、再入国許可の期限切れ、とまた入国を拒否された。だが、幸いなんとか入国できた。あやうく映画『ターミナル』のように空港から出られなくなってしまうところだった。なぜか。それは彼女が両親と違い、台湾の戸籍に入っていない「無国籍」だったからだ。

 著者は華僑などのマイノリティーの問題の研究者。この本で自らの経験をもとに無国籍者問題を取り上げている。

 両親は、中国大陸から第2次世界大戦後の内戦を逃れて台湾に来た。やがて、日本に移住。苦労して横浜中華街に店を持った。日本で生まれた末っ子が著者。キリスト教の洗礼名からララと呼ばれた。

 しかし1972年、日本は中華民国ようするに台湾と断交した。華僑が選択できる国籍は「日本」と「中国」しかない。「中国」には中華人民共和国も台湾も含まれる。両親には日本にも共産党の中国にも抵抗があった。一方、日本と台湾には国交がない。両親が日本生まれの娘に選択したのは「無国籍」。

 彼女は幼いころから、自分の国は、居場所はどこだろうと悩んできた。やがて研究者の道を進み華僑について研究するようになる。だが華僑とくくっても、住む国やルーツによってそれぞれ違う。研究は日本と世界の無国籍者に向かった。アメリカ軍基地の落とし子たち。日本人の父親から捨てられたフィリピン人女性の子ども。複数の国を背負った彼らを取材していくうちに、彼女は悟る。人間は、国籍だけでなく、生まれた土地や、話す言葉など、いろいろなもので繋がっている、と。

 この本は、マイノリティーの女性が自分のアイデンティティーを探す物語でもある。結局、彼女は無国籍の不便さから日本国籍を取った。でも「私は横浜中華街のララ」。それが彼女が見つけた自分だ。

(掲載:『望星』2005年4月号、東海教育研究所)