本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『百年の愚行』小崎哲哉ほか編

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百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]

小崎哲哉ほか編

紀伊国屋書店

2,520円

 

 1枚の写真。海辺で抱き合う恋人たち。その足下はごみだらけ。だが、彼らはそれに気づかない。今の地球と人類を象徴するような光景だ。

 この本は、そんな人類の愚行の光景を集めた写真集だ。環境破壊、戦争、飢餓、病気、人種差別、過剰生産など20世紀に溢れ出た悲劇の写真が百枚ある。企画、発行はNPO、Think the Earthプロジェクト。「エコロジーとエコノミーの共存」を目指して、環境問題や人道援助に取り組んでいる。21世紀になった今、人類がどんな地点まで来てしまったのか、どんな場所に立っているのか、振り返ってみるために、この本を作った。クロード・レヴィ=ストロースアッバス・キアロスタミ池澤夏樹らが前世紀を振り返り、新しい世紀を見据えたエッセイを寄せている。

 決して見ていて楽しい本ではない。丸坊主にされた森、密猟されたたくさんの象牙、工場の廃液が流される水俣の海。大量の放射性廃棄物。人間が自然に対してふるった暴力が目の前に突き出される。さらに人間が人間に行った暴力も見せつけられる。原爆のきのこ雲、アウシュヴィッツガス室エイズの少年の潤んだ目、棄てられたルワンダ難民の幼児。20世紀の人類の愚かな行為の数々がそこにある。

 レヴィ=ストロースが述べているが、20世紀初めには世界の人口は15億ほどだったが、現在は約60億。この爆発的な増大とともに、人間による生産も破壊もあまりに過剰になってしまった。そして、新世紀となった今も、その状況は少しも明るい方向に向かっていない。

 この本の送るメッセージは、あまりに暗く重い。不気味な警鐘を鳴らしている。

(掲載:『望星』2002年8月号、東海教育研究所)