本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『ぼくが見てきた戦争と平和』長倉洋海著

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ぼくが見てきた戦争と平和

長倉洋海

バジリコ

1,890円

 

 

 

 フォト・ジャーナリスト長倉洋海氏の写真で心惹かれるのは、人々の笑顔だ。屈強なイスラム戦士が、苦境にある人々が、笑顔をはじけさせている。この写真を撮っている人も笑顔をうかべているんだろうな、と思わせる。

 長倉氏は26年間世界の紛争地を巡り、さまざまな人に出会い、写真を撮ってきた。この本で長倉氏は若い人に自身のたどった道を見せつつ、語りかける。

 大学時代、長倉氏は探検部に入り仲間と共に無謀な冒険に挑戦していた。卒業後、通信社に写真部員として職を得たものの、世界の戦争の最前線を撮りたいという思いを捨てきれず、1980年退職。紛争地を巡るなか、長倉氏は戦争のなかで懸命に生きている人に強く引きつけられるようになった。中米エル・サルバドルでの取材が転機だった。

 そして1983年、アフガニスタンで、当時ソ連と戦っており「獅子」と呼ばれていた武装勢力の指導者マスードに、共に生活しながらの長期取材を申し込む。遠い国からたった一人でやってきた長倉氏を、同じ年齢のマスードは受け入れた。こうして長倉氏は、マスードイスラム戦士たちとの友情を育むようになる。

 マスードは2001年、内戦の終わらないアフガニスタンで暗殺された。だが、思慮深く自分の運命を神に委ねていたマスードへの、長倉氏の敬愛は今も変わらない。マスードのほか、エルサルバドルで、アマゾンで、コソボで生きる人々は長倉氏に人生を教えてくれた。写真には、出会った人、そして自分自身が写っている、その一コマ一コマがぼくの人生を作り上げ、同時に世界を作り上げた一瞬なのです、と長倉氏は言う。

 最近、海外の危険地帯で誘拐されたり殺されたりする日本人の若者がいる。それを「無謀」「自己責任」と冷ややかに突き放す日本の政治家。長倉氏は、若者たちに自分の若い頃を重ねて言う。政治家なら「若者が悲惨な事件に巻き込まれないように世界を平和なものに変えていきたい」というべきだ、と。

 長倉氏の我が道を行く地を這うような人生は、昨今流行っている生き方上手で小器用な人生とは大違いだ。熱い男の生き様である。

(掲載:『望星』2007年8月号、東海教育研究所に加筆)