本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『東アジアに新しい「本の道」をつくる』『本とコンピュータ』編集室編

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東アジアに新しい「本の道」をつくる―東アジア共同出版(日本語版)

本とコンピュータ』編集室編

トランスアート

2,000円

 日本、朝鮮半島、中国、台湾はかつて漢字を母字としており、やわらかな紙に木版印刷した本が行き来していた。これをブックロード、本の道という。たくさんの経典や物語がこの道によって運ばれ、国境を越えて共有されてきた。

 2002年、本の道を現代によみがえらせ、東アジアで本を交流させよう、という試みが始まった。そうして2004年にできたのがこの本だ。日本、韓国、中国、台湾の共同出版。日本は津野海太郎(当時『本とコンピュータ』編集長、現、和光大学教授)と加藤敬事(元みすず書房社長)、韓国は韓淇皓(韓国出版マーケティング研究所)、中国は劉蘇里(万聖書園)、台湾は郝明義(大塊文化出版)ほか各国の出版界で活躍する人々が参加して、この本をつくりあげた。韓国、中国、台湾でも各国語で出版される。

 季刊誌『本とコンピュータ』はデジタル化が進む世界で、本と本づくりはどんな道をたどるのか、未来を探るプロジェクトとして、1997年から2005年まで刊行された。

 日本ではいわゆる「かたい本」をはじめ本が売れなくなっている。その犯人を、取り次ぎ業者、新古書店、図書館などとしている向きもある。人々の本や書店に求めるものが変わってきているのだ。出版界と書店は変質を迫られている。

 韓国では、3、40代の386世代、日本でいうところによる全共闘世代にも似た1980年代の学生運動を担っていた世代が、政府に制限されない自由な出版を引っ張っている。

 中国では、これまで国営の出版業者や書店が中心だったが、民間の業者の進出も盛んになり、出版の自由度も上がる一方、経済自由化によって市場経済の困難に直面している。

 台湾では、中国大陸との出版の交流がおこなわれ、大陸の純文学を発行する一方、流行小説を大陸に提供している。

 四カ国の出版事情はそれぞれ違う。が「和して同ぜず」の心をもって、互いの交流を深め、東アジアの本の文化を高めよう、という意気込みが、この本にはあふれている。

(掲載:『望星』2004年8月号、東海教育研究所)