本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『ガルシア・マルケスひとつ話』書肆マコンド著

E728d0920ea0b38885bf0210l_aa240_ガルシア・マルケスひとつ話書肆マコンド著 エディマン 3,360円  この本は作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの世界を探求したもの。こむずかしい批評ではない。どこから読んでもおもしろいガルシア=マルケス百科だ。  ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』は日本をはじめ世界中を魅了している。彼が『百年の孤独』を描いたのは1967年、40歳の時。これが出世作となりノーベル文学賞を受賞した。以降、『予告された殺人の記録』『迷宮の将軍』などのさまざまな作品を書き続けている。  見てきたような嘘、嘘のようなまことが交錯しラテンアメリカの地に色鮮やかに、ときには暗い情熱で物語が織られるのが、ガルシア=マルケス作品だ。『百年の孤独』で語られるのは、架空の村マコンドの創始者ブエンディーア一族の物語。マコンドはガルシア=マルケスが生まれた南米コロンビアの村アラカタカがモデルだといわれる。彼のほかの作品の舞台にもなっている揺籃の地だ。物語で、一族の絶世の美女、小町娘のレメディオスは洗濯物を干している最中、生きたまま天に召される。  「小町娘のレメディオスの体が、ふわりと宙に浮きあがった。ほとんど盲に近かったが、ただ一人ウルスラだけが落着いて、この防ぎようのない風の本性を見きわめ、シーツを光の手にゆだねた。…彼女はシーツに抱かれて舞いあがり、黄金虫やダリヤの花のただよう風を見捨て、午後4時も終わろうとする風のなかを抜けて、もっとも高く飛ぶことのできる記憶の鳥さえ追っていけないはるかな高みへ永遠に姿を消した。」幻想の極み。  さて、この本『ガルシア・マルケスひとつ話』の著者、その名も書肆マコンド。ガルシア=マルケス作品に耽溺するあまり、本でガルシア=マルケスのワンダーランドをつくってしまった。読んでいると、マコンドを散歩しているような気分になって楽しい。巻末にマコンドの地図がある。 (掲載:『望星』2009年8月号、東海教育研究所)