『よみがえれ!夢の国アイスランド―世界を救うアイデアがここから生まれる (地球の未来を考える)』
アンドリ・S・マグナソン著
森内 薫訳
NHK出版 1,785円
2008年の金融破綻で初めてアイスランドを知った人もいるだろう。
アイスランドは北大西洋に浮かぶ小さな島国。「火と氷の島」とよばれる。火山活動が活発な大西洋中央海嶺の真上にある火山島だ。島の10パーセントが氷河におおわれている。森も耕作できる土地もごくわずか。あの世を思わせる神秘的な荒野がひろがる。手つかずの自然があり、たくさんの渡り鳥たちが夏を過ごす。人口約30万人。そのうち約18万人がヨーロッパの都会のように便利な首都レイキャヴィーク周辺に集まっている。
20世紀初頭まで漁業と牧畜に頼った貧しい国だった。だがその後、水産加工業などの発展から高い経済成長を遂げ、世界有数の裕福な国になった。ところが近年、金融業が突出、2006年にはGDPに金融、不動産の占める割合は26%までに達した。国中がマネーブームに沸いた。しかし2008年の金融破綻後、経済の危機に脅かされている。
また、第二次世界大戦中アメリカとイギリスが進駐したことから、西部のケフラヴィークに米軍基地が置かれていた。基地はアイスランド人の雇用を産み出し、軍事もアメリカに依存していた。しかし冷戦終結でソ連の脅威がなくなったことでケフラヴィーク米軍基地は必要性がなくなり、2006年、米軍基地は閉鎖された。
アイスランドは氷河から流れる豊かな水を利用した水力発電と火山を利用した地熱発電というクリーンな発電で電力をまかなっている。世界有数の電力が安い国だ。この安い電力に外国企業が目をつけだした。
2003年、アメリカのアルミニウム製造会社アルコアは東部アイスランドにアルミ精錬所を建設し、アイスランドの国営電力会社ランズビルキンが水力発電による電力を供給する、という話が持ち上がった。新たにダムが造られることになった。ダムを造れば鳥の生息地を含む原野が水に沈む。アルミ精錬による公害も考えられる。しかし東部アイスランドは産業がなく貧しい。アルミ工場ができれば潤うだろう。環境派と開発派が対立した。会社側は持続可能性プログラムを、つまりアルミ精錬を続けながら環境を保全できる、と主張している。現在までこのようなアルミ工場建設計画が5つある。
著者アンドリは、人々はアルミ工業に頼ることに囚われている、重工業以外の産業で、環境を守りつつアイスランドを発展させる方法があるはずだ、と訴える。経済成長ばかりが国の未来ではない、アイスランドが今の危機を乗り越えれば、他の国にも道筋を示すことができる、と。
この小さな国に現在の経済危機と環境問題の縮図がある。持続可能な開発。それは本当に可能なのか。
(掲載:『望星』2010年2月号、東海教育研究所に加筆)