ギュンター・リアー / オリヴィエ・ファイ著
古川まり訳
東洋書林 3,990円
「花の都」と枕詞がつく都市パリ。2,500年もの歴史のあるパリは名所がたくさん。誰もが一度は訪れたいと思う街だ。しかし、その地下には知られていない世界が広がっている。ドイツ人作家リアーと同じくドイツ人フォトグラファー、ファイはパリの暗黒面、地下へもぐり探索する。パリの地下というと作家ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』での迷路のような地下下水道が有名だが、それだけではない。
ローマ帝国の植民都市として誕生したパリ。その地中の北からは上質の石膏が、南からは石灰石が採れた。あちこちの地下採石場から掘り出され、その上に街が造られた。街の下は巨大な穴だらけとなり、良くないやからや魔物がたむろすると言われた。それよりも深刻なのは崩落事故があちこちで起きたことだった。
パリはさらに問題を抱えていた。教会の墓地が遺体でいっぱいになり腐臭に耐えられなくなったのだ。当時はみな土葬で、遺体はそのまま腐るにまかせていた。これを解決すべく、18世紀、遺骨を地下採石場跡に送り込んだ。そこでは遺骨は誰が誰ともわからずきれいに整列され、不気味なゴシックアートのような空間となった。この地下墓地はカタコンブと呼ばれ身分の上下を問わずたくさんの人々が見物に訪れた。ちなみにこのカタコンブツアーは今でも行われている。
その後、19世紀パリは都市大改造が行われ、ユゴーが描いた地下下水道も一新された。だが地下の空間は残っている。そして、パリは今でも崩落の危険にさらされている。
不気味な地下空間を愛する人々も長年存在する。パーティーをしたり探検したり堅苦しい地上世界から逃れてきたり。地上とは違う猥雑で自由な世界なのだ。
華麗な都パリには、その長い歴史にふさわしい暗黒面もある。美女の知られざる顔を見た。
(掲載:『望星』2010年3月号、東海教育研究所)