ハーペイ・カーケリング 著
猪俣和夫 訳
2,730円
ハーペイ・カーケリングはドイツのコメディアン。40代も近づき、病気もするようになってきた。そのときふと思ったのは「神様っているのかな」「神様ってなんだろう」。まったく信心深くはなかった。が、一念発起して、有名なキリスト教の巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステラへ巡礼することにした。
サンティアゴ・デ・コンポステラはスペイン北西部にある中世から続く伝統ある巡礼地。キリストの弟子ヤコブはローマで殉教し、その遺骸は海に流された。するとそれはスペインの彼の地で発見されたとのこと。そこには立派なサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂が建てられた。サンティアゴとは聖ヤコブという意味で、ヤコブは今でもスペインの守護聖人だ。
巡礼者たちはホタテ貝のからを首に下げ、フランスからピレネー山脈を越えてスペインに入り800キロの道のりを行く。途中乗り物に乗ってもかまわないが、サンティアゴ・デ・コンポステラの巡礼証明書をもらえるのには、最終路を徒歩か馬で100キロ以上、自転車で200キロ以上行かなければならない。それでも巡礼路の始めから歩いて行くことを望む人は多い。巡礼を成し遂げればすべての罪が許される、との教えなのだ。巡礼路には街道ができ、要所要所に修道院や食堂が建ち並び巡礼者たちの寝泊まりや食事の便をはかっているが、それでもつらい道のりだ。命を落とした人も大勢いた。
さて、ハーペイは巡礼の旅に出たものの、膝は痛い、荷物は重い、メシはまずい、と文句たらたら。旅人がこんなに軟弱な旅行記もめずらしい。地元の悪ガキどもの危険な遊びに巻き込まれ、ペルーの隠者につかまる。それでも途中で出会った旅の仲間とともにサンティアゴ・デ・コンポステラをめざす。
これはハーペイが神を探す旅なだけではなく、自分探しの旅でもある。彼は自分も見つけることができるか。
旅の終わりにハーペイは「何か」を見つけたことに気づく。
(掲載:『望星』2010年10月号、東海教育研究所)