本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『電子本をバカにするなかれ 書物史の第三の革命』津野 海太郎 著

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電子本をバカにするなかれ 書物史の第三の革命
津野 海太郎 著
国書刊行会
1,890円

 今の子どもや若者は本を読まなくなった、という。たいがいの町には書店も図書館もある。インターネットで注文することもできる。だが出版社や書店の売り上げは下がり続けている。この本の著者、編集者にして本とコンピュータの関わりの未来を長年模索してきた津野海太郎によると「今の若い者は本を読まなくなった」という文句は、かなり昔から言われ続けてきたらしい。

 20世紀は紙の本の黄金時代だった。現在、書物史の第3の革命が起こっているという。第1の革命は口承を文字に書き残すようになったこと。第2の革命は印刷により本を大量生産するようになったこと。今や本は消費物となった。日本の出版市場は大量に出版し大量に売り上げなければ利益が上がらない自転車操業を繰り返している。このどんづまり状態を第3の革命、電子本が変える「かも」しれない。

 第3の革命の第1段階は本の電子化。1971年、著作権の切れた本を電子化して公開する電子公共図書館計画「プロジェクト・グーテンベルグ」が始まった。第2段階、印刷本の技術が電子本に取り入れられて印刷本の限界を越えた新しい本が出現し本が関わるすべての世界で変革がおきる。第3段階、電子本ができないことが明らかになる。例えば一冊一冊の姿がそれぞれ個性をもつこと。結果、紙の本の良さが再発見される。第4段階、紙の本と電子本の共存。まあ、著者の予言ではなく予感。

 紙媒体は情報を書きとどめる。電子媒体は情報を更新していく。紙媒体に最新ニュースから古典哲学まであらゆる情報を運ばせていたのは重荷すぎた。単なる情報の伝達なら電子媒体の方がはるかに速い。紙の本をそういう役割から解放して、本来の姿、人間に静かに語りかけるモノに戻してほしい。
(掲載:『望星』2011年4月号、東海教育研究所)