本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』ダグラス・アダムス / マーク・カーワディン 著、安原 和見 訳

518wpuqdfvl_sl500_aa300_

これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景
ダグラス・アダムス / マーク・カーワディン 著
安原 和見 訳
みすず書房
3,150円

 

 「絶滅危惧種をとりまく状況は最初から、身もふたもなく絶望的」。

 銀河をヒッチハイクしてまわる異星人と最後の地球人の、壮大で情けなく皮肉たっぷりのSFコメディ『銀河ヒッチハイク・ガイド』。その作者ダグラス・アダムスが動物学者マーク・カーワディンと世界の絶滅危惧種を見てまわった道中記がこの本だ。1990年に書かれたため今と違うこともあるが、彼のユーモアに秘めた鋭い視点は海外で評価が高い。

 大陸から孤絶した島マダガスカルに住むアイアイはサルの子孫である人類の遠い親戚。かつてサルに大陸を追われた。旧ザイールで出会った畏るべき生きものゴリラは人類のごく近い親戚だ。だがともに人類によって絶滅にひんしている。ニュージーランドのぶきっちょな鳥カカポ(フクロウオウム)。敵のいない楽園で何万年も暮らすうち飛ぶことも攻撃されたら逃げることも忘れてしまった。たまに思いだしたように木から飛びおりてみると、3kgを超えるほどのふとっちょが宙を飛ぶ姿はレンガのようで、ぐしゃっと着地するさまには優雅さのかけらもない。人類が外からつれてきたネコなどに殺されて激減。カカポ捜索人とカカポ捜索犬が探しては安全な場所へ保護している。だが、溺れ死んだ姫君の生まれ変わりという伝説のある中国は揚子江ヨウスコウカワイルカは今はもういないようだ。河を行き交う船のエンジン音のうるささに聴覚ででまわりを測ることができなくなり、しょっちゅう船にぶつかってしまうのだ。

 動物たちに会うたびにアダムスは自分がサルの子孫にすぎない人類なことに気づく。インドネシアのコモド島では、コモドオオトカゲが観光客への見せ物としてヤギを貪り食うさまを披露するはめになっているのを見たアダムスは、人類が生物を絶滅から救うためにホラーショーを演じさせる連中であることと、それを黙って見ていた臆病な自分に恥じいる。そして海岸で木に飛びつこうとはねているトビハゼを見ながら、人類は3億5000万年ほど前に陸に上がった魚の子孫だったことを思い、もしや3億5000万年後にこの魚の子孫が今の自分のようにカメラを首からさげて海辺に座っているのだろうか、そうなら人類のようにはならないで欲しい、と願う。 

 生きものを絶滅させないために大勢の研究者やスタッフが働いている。生きものの絶滅は生態系を破壊するだけでなく、世界をそのぶんだけ貧しく暗く寂しい場所にしてしまう。それで人類はだいじょうぶだろうか。

(掲載:『望星』2011年12月号に加筆、修正)