本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『北の島 グリーンランド / 南の島 カピンガマランギ』長倉 洋海 著

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北の島 グリーンランド/ 南の島 カピンガマランギ
長倉 洋海 著
偕成社
各1,890円

 フォトジャーナリスト長倉洋海氏の最新刊。戦場に生きる人々の生活を撮ることが多かったト長倉氏が、今度は氷の島グリーンランドと常夏の島カピンガマランギで、古くからの生活を守り続ける人々を撮った。このふたつの島の共通するのは、地球温暖化の波にさらされているということだ。

 ほとんどが北極圏に入り、氷河に覆われたグリーンランド。住民の8割以上がイヌイットだが、現在はデンマーク自治領となっている。長倉氏はグリーンランド極北部の町カーナークから、さらに北極海の島ケケルタートへ、たくましい犬たちが曳く犬ぞりで向かう。そこで出会ったのは狩人とその家族。長倉氏はアザラシ猟を写真に撮る。獲物を狙う狩人の銃。アザラシから流れでる血で海と雪が赤く染まる。アザラシ肉の分け前をせがむそり犬たちも血に染まっている。20年以上前は家族で狩りをしたそうだ。だが今、子どもたちはテレビゲーム三昧。昔のほうがよかった、と狩人は言う。

 1950年代、カーナークの住民112家族はアメリカ軍のチューレ空軍基地建設のため、退去させられた。1968年、基地付近の北極海にB52爆撃機が墜落した。核爆弾1発は未だ回収できず、海は放射能汚染が疑われている。

 かつてホッキョクグマやアザラシの毛皮、イッカクの角は最大の輸出品だった。今は動物保護のため捕獲頭数が制限されて、狩りでは一家が食べていかれない。さらに温暖化で氷が溶け、狩りにも影響している。寒くて農業ができない土地で狩りをして暮らしてきた私たちはどう生きればいいんだ、という嘆きの声。それでも狩人は言う。「いつも命がけで、今日を生きることだけを考えて生活してきた。10年後、100年後のことよりも、今日を生きぬくことが第一だった。それが狩人だ。子どもたちは自分で、きっといい生き方を見つけていくだろう」。

 一方、太平洋のミクロネシア連邦、赤道近くのカピンガマランギ環礁のなかのウェルア島。青く透きとおった海と緑鮮やかな島。大学時代以来ひさしぶりに訪れた長倉氏を、島の人々は覚えていた。

 住民はポリネシア人。女性はタロイモ畑の世話、男性は漁とヤシの実とり。おとなも子どもも笑顔。ゆったりとした時が流れているようだ。だが楽園ではない。3カ月ぶりの雨を受けとめる子ども。島は波に浸食され小さくなっていく。島の海抜は平均1メートルしかない。「将来、島が沈んでしまうのではないかという不安はあるけれど、神さまがなんとかしてくれると信じている。この島が好きだから」。住民の祈りのような言葉。

 温暖化で失われてしまうかもしれない北の島と南の島の生活。生活という戦いを生きる人々。長倉氏はふたつの島の行く末を見守っている。

(掲載:『望星』2011年11月号、東海教育研究所に加筆掲載)