本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『「本屋」は死なない』石橋毅史 著

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 『「本屋」は死なない
石橋毅史 著
新潮社
1,785円

 「情熱を捨てられずに始める小さな本屋。それが全国に千店できたら、世の中は変わる。」

 これが、書店ひぐらし文庫店主、原田真弓が開店にあたって抱いた思いだった。渋谷にある大手書店の売り場担当を辞めて、売り場面積五坪のひぐらし文庫を始めたのだ。ここ数年、小さな町の書店はばたばたと消えている。人々は大きな町にある大手書店チェーンやインターネット通販で本を買う。なぜ彼女はお先真っ暗に見える書店業になぜ飛び込んだのか。

 この本の著者、石橋毅史は原田のような書店店主や書店員、いわゆる「本屋」を取材して廻った。2009年まで出版業界紙新文化』の編集長を務め、現在フリーランス。著者は「本屋」を尊敬し、本と読者をつなぐ伝え手と信じてきた。「本屋」たちは何を信じているのだろう。 

 「本屋」は本を育てる人でもある。客が足を止めて見入るように本の並びを工夫し、これと見込んだ本は置き場所や見せ方を変えながら、またはお勧め本のPOPを立てて、売り上げを少しずつ伸ばしていくのだ。だが、取次が全国でどの本が売れているかの細かいデータを即時に把握できるようになり、効率よく売り上げるためにどこの書店にも同じに売れそうな本を送ってくるようになると、「本屋」の出番はなくなった。金太郎飴のように似通った書店ばかりになり、そのなかで資本力の弱い小規模書店は相争ってつぶれ、大規模書店が残った。

 「本屋のあるかもしれない未来をもう一度つくるのは、人間ひとりひとり。」 

 鳥取定有堂書店を営む奈良敏行は言う。小さな本屋は客ひとりひとりと向きあって本を渡す方法を持っている、と。

 読者それぞれへ確実に本を手渡す小さな「本屋」が、不特定多数へ本を売るために巨大化して疲弊した書店業界の闇を照らすかもしれない。

(掲載:『望星』2012年5月号、東海教育研究所)