本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン 著 / 柳沢 由実子 訳

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緑衣の女

アーナルデュル・インドリダソン 著

柳沢由実子 訳

東京創元社

1,890円

 北欧アイスランド、首都レイキャヴィーク郊外の新興住宅地。子どもが建設現場で拾った石は人の骨だった。こんなショッキングな出だしで物語は始まる。この本はアイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの小説の邦訳2作目。前作『湿地』同様に、海外で推理小説に送られる数々の賞を受賞している。主人公は前作と同じく50代の寡黙な警察官エーレンデュル。

 通報にかけつけたエーレンデュルたち。人骨はおおよそ60年から70年前に埋められたものらしい。第二世界大戦中、アイスランドがイギリス軍、後にアメリカ軍に占領されていた時期だ。捜査のさなか、エーレンデュルの携帯電話が鳴り一言で切れた。「助けて。お願い」。娘のエヴァ=リンドだった。疎遠だったエーレンデュルと怒鳴りあって飛び出したまま行方がわからなかったのだ。娘は妊娠しているのにドラッグを絶てずにいた。

 一方、もう一つの物語も語られる。夫に暴力をふるわれる妻と恐れおののく子どもたちの生活。夫を恐れ自分を失い闇に閉じこもる妻に希望は訪れるのか。この二つの物語がからみあって進んでいく。

 首都レイキャヴィークには現在、総人口約32万人の約4割が住む。昔は小さな港町だったが、イギリス・アメリカ軍の占領期に仕事を求めて地方からきた人々が住まい、拡大した。人骨が見つかった、かつての片田舎を呑み込むほどに。

 

主人公エーレンデュルも幼いころ地方から移住した一人だ。街になじめず、妻にも子どもたちにもうちとけることができずに離婚した。彼女らも孤独のなかにある。エーレンデュルは言う。「時間はどんな傷も癒しはしない」。

 物語の人々は、みな幼いころの傷を抱えて生きている。孤独は孤独しか生まず、暴力は暴力しか生まない。推理小説というには重い家族小説だ。

祝 第2位『ミステリが読みたい!2014年版』海外編

祝 第2位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編

どうして1位じゃないんだろうか…。

(掲載:『望星』2013年10月号)