本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『善き書店員』 木村 俊介 著

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善き書店員
木村 俊介 著
ミシマ社
1,944円

 書店の経営が苦しい、という話が出て久しい。その現場に立つ書店員さん6人へのインタビューを収めたのがこの本だ。職場は大規模チェーン書店から独立書店、立場も店長から非正規社員まで、さまざまな普通の書店員さんの紆余曲折を、インタビュアー木村俊介氏が記録した。

 どの書店にどの本が置かれるかは、実は書店の立地や規模、売り上げによって出版取次(卸売業者)にある程度決められている。売れると見込まれて多く入荷した本がそれほど売れずに返品したり、また本によっては全く入荷しなかったり、入ってもわずか、ということもよくあるのだ。その制約のなかで、書店員さんは自分の店で置きたい本、売れそうな本を探し店頭に並べ、お客さんに手にとってもらえるように苦闘する。

 登場する書店員さんが書店でたどってきた道はいろいろ。ずっと非正規社員の人、勤めていた書店が倒産して今の職場へたどり着いた人、傾いていた家業の書店を立て直した人など。業界は安楽ではない。辞めていく仲間も多い。それでも本を愛し、それ以上にお客さんに本を手渡すことを愛して試行錯誤、七転八倒しながら己の職を全うしようとする「善き」人々なのだ。
 
 ある書店員さんがこんなことを言っている。「遠い未来、社会のなかで書店は、今あるもので例えると『木桶』のようなものになるかもしれない。ほとんどの人が日常的に使わなくても、たまには使ったり好きな人は使い続けているもの。そんな木桶のように書店員も残るだろう。」と。
 
 そんなことはない。書店と書店員さんは木桶のように他のものにとって代わられるものではない。書店と書店員さんが存在しないなら誰も本と出会えない。
 
 著者は、今働く普通の人々をインタビューという形で記録に残したいと、この本を書いた。本を読む幸せは普通の善き人々に支えられている。

(掲載:『望星』2014年3月号、東海教育研究所に訂正)