本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『教育委員会 何が問題か』 新藤宗幸 著

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教育委員会 何が問題か』
新藤宗幸 著
岩波書店岩波新書
821円

 教育委員会が主体となっている地方教育行政に、自治体の首長がリーダーシップを発揮できるようにする改革の導入が問われている。だが、教育行政へ政治が介入し首長の独善に振りまわされることへの懸念がある。

 教育委員会も問題を抱えている。2011年の大津中学校いじめ自殺事件で市教育委員会のいじめを隠蔽するような対応。2012年、島根県松江市で市教育委員会がマンガ『はだしのゲン』を学校図書館での閲覧を制限するよう校長会で要請。2013年、首都圏の自治体の教育委員会が公立高校の日本史教科書採択について、ある出版社の教科書を採択しないように校長に求めた。

 この本の著者は行政学者。教育委員会がどのような問題を抱え、国と自治体の教育行政がどのようにあるべきかを問う。

  教育委員会は、教育の政治的中立を確保するために素人統制のもと、自治体首長から独立した地方教育行政の最高機関である。だが、市町村教育委員会の上に都道府県教育会があり、その上に文部科学省初等中等教育局、というタテ構造になっている。教育委員のうち、常勤は職員で教育委員会事務局の長である教育長で、その他は非常勤。実は教育委員会が行うとされる地方教育行政は、自治体職員からなる教育委員会事務局が担っており、教育委員会は案を認証するにすぎない。事務局職員のほとんどは教員経験者。学校現場の多くのこと、教員の人事や管理指導も事務局が掌握している。教員との断絶は深い。

 著者は、戦後の文部省(現在の文部科学省)と教育委員会制度の成り立ちから、教育委員会の問題点を追っていく。そして、素人統制を謳いながら文科省の管理下にあり、実務は事務局で一部の教員経験者が行っている教育委員会を、閉鎖的と批判する。その上で、教育行政をそれぞれの学校と地域住民に解放するために住民参加の教育組織の作成と、それによる文部科学省教育委員会事務局、各学校からなる上意下達のタテ構造の破壊を提案する。

 教育委員会改革は著者の考えと違う形になりそうだ。上意下達の教育は子どもを幸せにできない。

 (掲載:『望星』2014年7月号、東海教育研究所より加筆改変)