本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』 伊勢﨑賢治 著

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本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る

伊勢﨑賢治 著
朝日出版社
1,700円

 伊勢﨑賢治氏は国連PKO活動に参加し東ティモールシエラレオネアフガニスタン武装解除を手がけてきた自称「紛争屋」。現在、大学で各国の学生に「平和と紛争」学を教え研究している。

 2012年、東日本大震災の翌年に伊勢﨑氏は福島市にある福島県立福島高校を訪れ、2年生たちに自らの国際紛争での仕事と体験を講義した。震災で福島高校のふたつの校舎が使用不能で会場はプレハブ仮設校舎。生徒たちは被災者であり、東日本大震災福島原発事故という脅威を日本人として伊勢﨑氏と共有していた。この講義は、そんな彼らと国際紛争という日本人には非日常的な世界をどこまで共有できるか、という伊勢﨑氏の試みだった。それをまとめたのがこの本だ。

 伊勢﨑氏の関わった紛争国はまだ平和と言えない。どうして日本は平和ダと思う、と高校生に問う。またアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンが当時アメリカに協力していたパキスタンの首都近くでアメリカ特殊部隊に殺害されたことから、もしアメリカの同盟国日本の新宿歌舞伎町で同じことが起きたらどう思う、そもそもビンラディンのようなテロリストと呼ばれるのはどんな人々だと思う、と尋ねる。

 さらに伊勢﨑氏は生徒たちに、「日本は戦争でアメリカに負けたから、日本人は自分たちと同じようにアメリカに不信感を持っているんだろう」という「美しい誤解」を海外で抱かれがちということを説明する。それを生かし、日本には憲法九条があるので戦争をしない、と海外に広め、自衛隊が非武装で紛争国の武装解除や戦後復興などにあたれば、相手国の信頼を得て独自の国際貢献ができるのではないか、と持論を説く。実際、日本は戦争をしない憲法をもつ平和国家として、戦争の絶えない国の人々から憧れられている。

 紛争を終わらせ生活を取り戻すには、国々の複雑な対立構造に取り組んで和解を目指さねばならない。だが、それは本当に成しがたいことだ。日本は紛争国に「戦争をしないこと」を期待されている。
(掲載:『望星』2015年4月号、東海教育研究所に加筆)