本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『“ひとり出版社”という働きかた』 西山雅子 編

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“ひとり出版社”という働きかた
西山雅子 編
河出書房新社、1,836円

 本屋に行っても読みたい本がない、つまらない、とお嘆きの方もいるかもしれない。本の売り上げが落ちているなか、出版社は、確実によりたくさんの人に売れる企画を取り上げて本を作らざるを得ない。また、本は人に渡っていくのに手間のかかる情報媒体だ。情報媒体なのと同時に商品なので、まず市場に出て小売店である書店の売り場にならばなければならない。ところが書店も限られた売り場には確実によりたくさんの人に売れる本をならべたい。だが、売れる本がいくつもならんだ書店の棚は個性に欠けるかもしれない。そんな本は手に取ってみても買う気が起こるほど惹きつけられないかもしれない。

 そういった流れから外れて、自分がおもしろいと信じる企画から本をつくるために、ひとりかわずかな人数で本を出版し書店に売り込む出版社が読者を獲得しつつある。この本はその“ひとり出版社”の本のつくり手たちのそれぞれの本にのせる思いを語る。小さい書房、土曜社、里山社、港の人、ミシマ社、赤々社、サウダージ・ブックス、ゆめある舎、ミルブックス、タバブックス、夏葉社、沖縄の小さな出版社の本を売る、市場の古本屋ウララ、絵本専門書店とギャラリーでさらに出版もするトムズボックスほか。
 
 名前だけでも個性的な会社でひとり奮闘する人々。テレビ局にいた人、広告代理店にいた人、文化人類学者を志していた人も。大人むけの絵本、亡くなった作家の埋もれていた名作の復刻、「売れない」と言われる詩歌の本などを、読む人がいることを信じて、少ない部数を発行し小出版社の本を扱う取次や書店に託す。

 作者の小さな声を拾って遠くまで届く本。大勢ではなくひとりひとりの読者へ。本は本来、個と個をつなぐ自由な情報媒体であることを、このつくり手たちは思い出させてくれる。

(掲載:『望星』2016年1月号、東海教育研究所)