本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『16歳の語り部』語り部:雁部那由多 / 津田穂乃果 / 相澤朱音 案内役:佐藤敏郎

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16歳の語り部
語り部:雁部那由多 / 津田穂乃果 / 相澤朱音
案内役:佐藤敏郎

ポプラ社

 

 2011年3月11日の東日本大震災の当時、雁部那由多くん、津田穂乃果さん、相澤朱音さんは宮城県東松島市の小学5年生だった。被災してクラスメイトを失い、避難生活を体験した。3人が中学3年生のとき、教員として赴任してきた佐藤敏郎さんに出会った。3人は佐藤さんの誘いで語り部として本格的に活動をはじめた。

 この本には3人が高校1年生になった2015年8月、東京でのイベント「あの日を語ろう、未来を語ろう」で語ったそれぞれの震災体験を収録してある。

 彼らは大人たちが子どもたちを押しのけて配給物資を取り合うのを見た。雁部くんは、目の前で黒い津波にのまれて亡くなった人が忘れられない。なぜ手を差しのべられなかったのか、と自分を責める。津田さんは、再開した学校で自分を含めた皆がやりどころのないイライラを爆発させていた様子を語る。全国から寄せられた「がんばって」の手紙に、これ以上がんばれない、と思った。相澤さんは、けんか別れしたままの親友とまだ幼い愛犬を失った。なんで私なんかが生きているんだろう、という思いに捕らわれて内に閉じこもってしまった。前向きになろうとしている大人に話して心配をかけるわけにいかず、津田さんに話を聞いてもらうしかなかった。3人は自分の体験を語ることで、自分のなかの「震災」を受けとめていく。

 雁部くんは災害が起きていない地域を「未災地」と呼ぶ。日本にいるかぎり大災害が起こらない保証のある場所なんてないと。「僕たちが、あの日、あのとき、何が起こったのかを理解できた最後の世代で、しかも、その体験を自分の言葉で伝えられる最後の世代なんです」。大震災を記憶する最も若い人たちが未来を救うために過去を語る。

(掲載:『望星』2016年7月号、東海教育研究所に加筆・訂正)