本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ沢渡 曜の書評ブログ

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内村 洋子 著、方丈社

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モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
内村 洋子 著
方丈社

イタリアで暮らすジャーナリストでエッセイストの内村洋子さん。ある日、水の都ヴェネツィアで貫禄を漂わせた古書店に目をとめた。扱うのはすべてヴェネツィア関連の本。歴史、文芸、経済、宗教などなど。やがて、その書店は内村さんにとってヴェネツィアの知恵袋となった。聞けば店主の家系はヴェネツィアではなくトスカーナ州のモンテレッジォ出身だとのこと。そこの人々の多くは本の行商で生計を立てていたという。

 本にひかれるように内村さんは見知らぬ地モンテレッジォへ飛んだ。モンテレッジォは海を眼下に望む山岳地帯の小さな村。古くは交通の要衝だった。ローマ時代以降、イタリアはひとつの国ではなく教皇領ほかたくさんの国と都市があった。モンテレッジォは地味が乏しく、村人はよその農地への出稼ぎで暮らしていた。だが1816年、寒冷化で農作物が全滅。たくましい村人は地元産の砥石の行商で糊口をしのいだ。ともに売り歩いたのはキリスト教のお守り札だった。

 ナポレオンの時代の後、イタリアでは国家統一の気運が高まった。知識を求める人々が増えた。モンテレッジォの行商人たちは本を売るようになった。安価な本を遠くの町まで運び、露店で売る。出版社は本の売れ筋を行商人から聞いた。モンテレッジォの本の本の流通と情報を担っていた。イタリア統一やファシズムの時代には禁書を外国から運んだ。

 本の行商人には、転じて都市で書店を構える者も大勢いた。1953年、モンテレッジォ周辺の山岳地帯で本が生まれて育ったのを記念して、書店が優れた本に贈る賞「露店商賞」が誕生した。以来、現在まで毎年続いている。

 山村の旅する本屋が運んだ物語、情報、文化。その歴史を内村さんの旅が追う。旅物語として読んでも楽しい。

(掲載:月刊『望星』2018年8月号、東海教育研究所 に加筆、訂正