本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『本を贈る』 若松 英輔/島田 潤一郎/牟田 都子/矢萩 多聞/橋本 亮二/笠井 瑠美子/川人 寧幸/藤原 隆充/三田 修平/久禮 亮太 著、三輪舎

Photo_11

『本を贈る』
若松 英輔/島田 潤一郎/牟田 都子/矢萩 多聞/橋本 亮二/笠井 瑠美子
/川人 寧幸/藤原 隆充/三田 修平/久禮 亮太 著

三輪舎


 始めに言葉ありき。本は作者の言葉を載せるためにある。画集や写真集なら作品を載せるために。そのために最高の形に作られ、読者のもとへ送られる。

 本を作り、送る。編集者は作者の言葉を編集して本に組み立てる構想を練る。装丁家は言葉を表現するに最高の本のデザインを作る。校正者は言葉を読者に伝わりやすいように直す。印刷会社では美しく印刷して言葉を紙に載せる。製本会社で言葉を印刷された紙は本の形になる。取次は本の問屋。できあがった本を書店に送る。出版社からは営業が、その本を書店にアピールし売ってもらえるよう託す。書店では、どのようにしたら本を客が手に取るか考える。そして本は読者の手に届く。この本『本を贈る』では、本作りと本送りの現場の人々9人が、自分の仕事と本を贈ることを語る。

 印刷会社の4代目、藤原隆充氏は、本作りは駅伝、と言う。言葉を載せる本のために、それぞれの現場が最高の仕事をして、次の現場に送りだす。どこか一部に欠陥や間違えがあると価値が損なわれる。それは前の走者で区間賞を出しても、後ろの走者が遅ければ勝負に勝てない駅伝と似ている、と。

 本を贈るために、これまでの本の業界にはなかった仕事をしている人もいる。島田潤一郎氏は息子を亡くした叔父と叔母のためにひとりで出版社を作った。ひとりの読者が何度も読みかえしてくれるような本をつくり続けたい、とひとり出版社を経営している。三田修平氏は書店員を経て移動式本屋を始めた。移動図書館車のような車を走らせ本を売る。本屋が少ないところの本に飢えた人々へ、ふだんあまり本屋に行かない人々へ、本と出会ってもらうために。

 そうして届いた本を人が読む。言葉が読者のものになる。終わりにも言葉ありき、なのだ。

掲載:『望星』2019年1月号(東海教育研究所)に加筆訂正。