本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『本屋がアジアをつなぐ 自由を支える者たち』石橋毅史 著

9784907239411


本屋がアジアをつなぐ 自由を支える者たち
石橋毅史 著
ころから

  「真理がわれらを自由にする」。この言葉が国立国会図書館のホールに刻まれている。戦後、民主主義のための図書館をつくるために掲げられた理念だ。

 「本屋」たちもその理念を抱いている。この本の著者、出版ジャーナリスト石橋毅史さんは、書店員のみならず本を読み手に届けるのを生業にしている人全てを尊敬を込めて本屋とよぶ。石橋さんは日本から台湾、韓国、香港と本屋たちを訪ね、ともに話した。

 百年あまり前、内山完造が上海に渡ってひらいた内山書店。魯迅をはじめ日中双方の政府から追われる文人を守った。敗戦後に閉店。神田神保町の内山書店が受け継いでいる。

 韓国の軍政下時代、1980年5月18日に起きた「光州事件」。民主化運動の拠点だった全羅南道光州市では、デモ鎮圧の軍に学生と市民が抗して大量の死傷者が出た。その頃、光州にあったノクドゥ書店の店主キム・サンユンは民主化を目指す学生のために入手困難な禁書を売り、学生たちはそこで読書会を開いていた。事件の前日にキム・サンユンは逮捕され、ノクドゥ書店は閉店を余儀なくされた。韓国民主化を経て、今では書店は自由に開かれている。

 今年、香港では香港政府の逃亡犯条例改定に対して市民の反対運動が広がった。その前の2015年、中国共産党の批判本などを発行、販売していた銅羅湾書店の関係者5人が行方不明となった。翌年、そのうちのひとり、林榮基の記者会見によって、中国当局による拉致事件とわかった。林榮基は現在、台湾で新しい書店をつくろうとしている。自分はただの町なかの本屋だ、けれども中国の人に自由になってほしいと思っている本屋だ、と言う。

 本屋は人を自由にする仕事だ。もし、その国や地域が自由を失えば潰されてしまう。本屋は本を介して、人々の自由を支えている。


掲載:『望星』2019年11月号(東海教育研究所)に加筆訂正。