本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『書店と民主主義 言論のアリーナのために』福嶋 聡 著

222590

書店と民主主義 言論のアリーナのために
福嶋 聡 著
人文書院

 2015年、ジュンク堂書店渋谷店はブックフェア「自由と民主主義のための必読書50」を開催した。だが選んだ50冊のなかにSEALsの本がある、従業員の私的なツイートの内容が疑わしい、などのことから、フェアが思想的に偏っている、との批判が相次いだ。店側はフェアを一時中断し選書をやりなおした。今、本や新聞、テレビ、音楽までも表現の中立が是とされている。では中立とは、偏りとはなんなのか。だれが見ても偏っていない主張というのは存在するのか。

 この本の著者、福嶋聡氏は同じジュンク堂の難波店店長。2014年12月、難波店で「店長の本気の一押し! STOPS!! ヘイトスピーチヘイト本」と題して嫌韓嫌中本などのヘイト本と『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(加藤直樹/明戸隆浩ほか著、ころから)をならべてフェアを催した。このフェアは賛否両論の大きな反響を呼んだ。

 ヴォルテールが言ったとされている言葉「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」。福嶋氏は自分の志向に反する本を書店から排除しない。人は共感できない本に対し論理的に反論しようとするなら読んだうえで思考し反論する。共感できない本を排除するなら議論は起こらない。さまざまな本が議論を呼び起こし、議論が咲き競い、それが実り豊かな結果を産み出す。書店はそんな言論のアリーナ(闘技場)でありたいと願っている。

 民主主義のもとにこそ存在できる言論のアリーナたる書店で、書店員は批判に対して自分の意見をあきらかにすべきと福嶋氏は言う。偏っているから意見であり中立な立場などもともとないのだ、と。

 だれから見ても偏りのない本などない。書店はさまざまな意見や思考に出会える場所であってほしい。

掲載:『望星』2016年5月号(東海教育研究所)に加筆訂正。