
『
記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済
』
武邑光裕著
東京大学出版会
3,990円
物語や歌をはじめ、あらゆることはその時代の人々の記憶に残る。そして後の時代の人々に伝えるために記録される。最初、記録は、石や粘土板、木の板などに刻まれた。やがて紙が使われるようになり、そしてカメラやビデオが発明された。
デジタル・アーカイヴとは、歴史的な絵画、映像、音楽や貴重な文書、伝統
文化財や伝統工芸品、
伝統芸能に至るまでをデジタル情報として記録し、保存、管理するものだ。「アーカイヴ」とは「記録保管庫」のこと。博物館、美術館、図書館の役目を持つ記憶の集積。
それを人々はインターネットなどを通じて、いつでもどこででも見ることができる。記録が残っていれば、
アフガニスタンや
イラクの戦争でのように
文化財が破壊されても複製を作ることもできる。現在、世界で
文化財のデジタル・アーカイヴ化が推し進められているのだ。
武邑光裕はサイバーメディア文化の研究者で、日本の伝統文化のデジタルアーカイヴを作成する「デジタル・ジャパネスク」プロジェクトに参加している。この本では、デジタル・アーカイヴという新しい歴史の記録方法を解説し、それを核として「記憶」と「記録」を創造していくことについて語る。
インターネットやサイバーメディアはもとより、児童文学の名作『
ニルスのふしぎな旅』、
ベンヤミンの『パサージュ論』、『
古事記』『
日本書紀』、マンガ『
ヒカルの碁』、そして沖縄の「平和の礎」などなど、あらゆる「記憶するための記録」を駆使し、古代から現代を見渡しながら未来に向かって展望。過去の誰かが今の誰かへ、さらに未来の誰かへ手渡す「記憶」。あふれる情報の海を泳ぎ渡ると、記憶とサイバーメディアをめぐる著者の世界観がマンダラのように広がる。
(掲載:『望星』2003年、東海教育研究所)