本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済』武邑光裕著

41wn0pn1hgl_aa240_記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済武邑光裕東京大学出版会 3,990円  物語や歌をはじめ、あらゆることはその時代の人々の記憶に残る。そして後の時代の人々に伝えるために記録される。最初、記録は、石や粘土板、木の板などに刻まれた。やがて紙が使われるようになり、そしてカメラやビデオが発明された。  デジタル・アーカイヴとは、歴史的な絵画、映像、音楽や貴重な文書、伝統文化財や伝統工芸品、伝統芸能に至るまでをデジタル情報として記録し、保存、管理するものだ。「アーカイヴ」とは「記録保管庫」のこと。博物館、美術館、図書館の役目を持つ記憶の集積。  それを人々はインターネットなどを通じて、いつでもどこででも見ることができる。記録が残っていれば、アフガニスタンイラクの戦争でのように文化財が破壊されても複製を作ることもできる。現在、世界で文化財のデジタル・アーカイヴ化が推し進められているのだ。  武邑光裕はサイバーメディア文化の研究者で、日本の伝統文化のデジタルアーカイヴを作成する「デジタル・ジャパネスク」プロジェクトに参加している。この本では、デジタル・アーカイヴという新しい歴史の記録方法を解説し、それを核として「記憶」と「記録」を創造していくことについて語る。  インターネットやサイバーメディアはもとより、児童文学の名作『ニルスのふしぎな旅』、ベンヤミンの『パサージュ論』、『古事記』『日本書紀』、マンガ『ヒカルの碁』、そして沖縄の「平和の礎」などなど、あらゆる「記憶するための記録」を駆使し、古代から現代を見渡しながら未来に向かって展望。過去の誰かが今の誰かへ、さらに未来の誰かへ手渡す「記憶」。あふれる情報の海を泳ぎ渡ると、記憶とサイバーメディアをめぐる著者の世界観がマンダラのように広がる。 (掲載:『望星』2003年、東海教育研究所)