本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

2007-01-01から1年間の記事一覧

『父のトランク ノーベル文学賞受賞講演』オルハン・パムク著、和久井路子訳

『父のトランク―ノーベル文学賞受賞講演』 オルハン・パムク著 和久井路子訳 藤原書店、1,890円 ある日、作家オルハン・パムクの仕事場に父がやってきた。父は小さな黒いトランクを持ってきていた。父は言った。「ちょっと見てくれ」とやや恥ずかしそうに「…

『誓いの精神史 中世ヨーロッパの〈ことば〉と〈こころ〉』岩波敦子著

『誓いの精神史 中世ヨーロッパのと (講談社選書メチエ)』 岩波敦子著 講談社(講談社選書メチエ) 、1,575円 西洋世界での声に出して言う「誓い」の言葉というと、日本で一番多く目にするのはキリスト教式結婚式での新郎新婦の誓いだろう。 西洋では、伝統的…

『悪魔に魅入られた本の城』オリヴィエーロ・ディリベルト著、望月紀子訳

『悪魔に魅入られた本の城 (シリーズ愛書・探書・蔵書)』 オリヴィエーロ・ディリベルト著 望月紀子訳 晶文社、1,995円 本を手に入れるのは、実はたいへんなのだ。多種多様な書店がある東京に住んでいるのならいざしらず、ベストセラー以外の本は、地方の近…

『さよなら僕の夏』レイ・ブラッドベリ著、北山克彦訳

『さよなら僕の夏』 レイ・ブラッドベリ著 北山克彦訳 晶文社、1,680円 アメリカ文学の大御所レイ・ブラッドベリ。『華氏四五一度』など詩的な文章で書かれる作品はジャンルの枠を越える。彼は37歳のときの名作『たんぽぽのお酒』の続編を80歳代後半で書いた…

『サイボーグ化する私とネットワーク化する世界』ウィリアム・J・ミッチェル著、渡辺俊訳

『サイボーグ化する私とネットワーク化する世界』 ウィリアム・J・ミッチェル著 渡辺俊訳 NTT出版、3,780円 「サイボーグ」だのいう言葉を見てSF小説だと思う方もいるかもしれないが、そうではない。 マサチューセッツ工科大学教授の著者ミッチェルが…

『古本暮らし』荻原魚雷著

『古本暮らし』 荻原魚雷著 晶文社 1,785円 著者の住んでいる高円寺界隈の中央線沿いは、個性的な古本屋が多い。中央線で古本屋のメッカ神田神保町に向かう。古本屋での心躍る本との出会い。至福の瞬間だ。 「手にとった瞬間、わけもわからずほしくなる。心…

『センセイの書斎』内澤旬子著

『センセイの書斎―イラストルポ「本」のある仕事場』 内澤旬子著 幻戯書房 2,310円 本を置く場所を確保するのは、ふつうの人にはむずかしい。ましてや書斎を持つことなどは夢のような話だ。しかし、この本に出てくる作家、研究者など31人のセンセイたちはそ…

『滝山コミューン一九七四』原武史著

『滝山コミューン一九七四』 原 武史著 講談社、1,785円 1970年代に小学生だった人は、この本に懐かしさと苦さを味わうだろう。 著者原武史は『大正天皇』などの本で知られる政治学者。1974年には東京都東久留米市の滝山にある小学校の6年生だった。これは著…

『われらはみな、アイヒマンの息子』ギュンター・アンダース著、岩淵達治訳

『われらはみな、アイヒマンの息子』 ギュンター・アンダース著 岩淵達治訳 晶文社、1,890円 アドルフ・アイヒマンはナチスドイツのユダヤ人絶滅計画の総責任者だった。戦後アルゼンチンに逃亡し、家族とともに隠れ住んでいた。だがイスラエルの情報機関によ…

『古本道場』角田光代・岡崎武志著

『古本道場』 角田光代・岡崎武志著 ポプラ社 1,470円 「古本屋めぐりが趣味」という人は、たんなる「趣味は読書」な人とは違って、その道の上級者である。古本のなかから、自分にとって価値ある一冊を選び出すのだ。やがて古本の目利きになっていく。 さて…

『ファンタジーと言葉』アーシュラ・K・ル=グウィン著、青木由紀子訳

『ファンタジーと言葉』 アーシュラ・K・ル=グウィン著 青木由紀子訳 岩波書店、2,520円 アーシュラ・K・ル=グウィン。「西の善き魔女」とあだ名される作家。代表作は1968年の発表から今なお読みつがれるシリーズ『ゲド戦記』。SFでの代表作は『闇の左…

『ヨーロッパ 本と書店の物語』小田光雄著

『ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)』 小田光雄著 平凡社 798円 活版印刷の聖書がドイツ人グーテンベルクによって作られたのが1455年。本はしだいにヨーロッパの民衆に読まれるようになった。スペインの田舎紳士ドン・キホーテが、行商人が売る騎士道…

『本棚の歴史』ヘンリー・ペトロスキー著、池田栄一訳

『本棚の歴史』 ヘンリー・ペトロスキー著 池田栄一訳 白水社、3,150円 自宅で本の置き場に困っている方も多いだろう。「本をどうやって置くか」「限られたスペースに、本を減らさずにどうやって収めるか」。本好きには悩ましい問題だ。 この本は、「本をど…

『イスラエル 兵役拒否者からの手紙』ペレツ・キドロン著、田中好子訳

『イスラエル 兵役拒否者からの手紙』 ペレツ・キドロン著 田中好子訳 日本放送出版協会 1,470円 イスラエルでは徴兵制がしかれている。18歳以上の国民は、男性が3年間、女性が1年9ヵ月の兵役につく義務がある。さらに予備役として、男性は45歳になるまで毎…

『記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済』武邑光裕著

『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』 武邑光裕著 東京大学出版会 3,990円 物語や歌をはじめ、あらゆることはその時代の人々の記憶に残る。そして後の時代の人々に伝えるために記録される。最初、記録は、石や粘土板、木の板などに刻まれた。…

『石神井書林日録』内堀弘著

『石神井書林 日録』 内堀弘著 晶文社 2,100円 本の世界には、普通の明るい書店の本のようにピカピカの本があるばかりではない。年月を経て怪しい雰囲気を醸し出すに至った不思議な本もあるのだ。 「石神井書林」は店舗のない古本屋である。古書目録を顧客に…

『和本入門 千年生きる書物の世界』橋口候之介著

『和本入門 千年生きる書物の世界』 橋口候之介著 平凡社 2,310円 江戸時代、日本の出版文化が花開いた。それまで中国の本の翻訳本が大多数だったのが、江戸時代になると日本人の筆者によるものが増え、仏書、漢籍から庶民の読み物までに広がった。読書が多…

『千の太陽よりも明るく 原爆を造った科学者たち』ロベルト・ユンク著、菊盛英夫訳

『千の太陽よりも明るく―原爆を造った科学者たち (平凡社ライブラリー)』 ロベルト・ユンク著 菊盛英夫訳 平凡社 1,680円 1945年、世界初の核実験の際、原爆研究所所長ロバート・オッペンハイマーは、明るい火の玉が天地をつつんでしまうのではないかと思う…

『アイスランドへの旅』ウィリアム・モリス著、大塚光子訳

『アイスランドへの旅』 ウィリアム・モリス著 大塚光子訳 晶文社 2,520円 この本の著者ウィリアム・モリスは19世紀イギリス文化の巨人である。壁紙や織物の装飾デザイナー、詩人、社会主義運動家で、さらに理想の本を造るために印刷所を設立、現在の造本に…

『活きている文化遺産デルゲパルカン チベット大蔵経木版印刷所の歴史と現在』池田巧、中西純一、山中勝治共著

『活きている文化遺産デルゲパルカン―チベット大蔵経木版印刷所の歴史と現在』 池田巧、中西純一、山中勝治共著 明石書店、3,150円 中国西部の四川省の、さらに西北部、チベット自治区と隣り合うチベット人の多く住む地域、豊かな森林が広がる標高3,220mの山…

『アフガニスタン 山の学校の子どもたち』長倉洋海著

『アフガニスタン 山の学校の子どもたち』 長倉洋海著 偕成社 1,890円 長年、アフガニスタンを撮り続けてきた写真家、長倉洋海氏が山の学校の子どもたちに出会ったのは2002年のことだった。アフガニスタン北部のパンシール、長倉氏の敬愛する北部同盟の指導…

『他者の苦痛へのまなざし』スーザン・ソンタグ著、北條文緒訳

『他者の苦痛へのまなざし』 スーザン・ソンタグ著 北條文緒訳 みすず書房、1,890円 戦争の犠牲者、死体や苦痛にあえぐ傷ついた人々、恐怖と絶望の中にいる人々の写真が、戦争の真実を伝えるためにテレビ、新聞、インターネット、または報道写真展など、いた…

『ヴォイニッチ写本の謎』ゲリー・ケネディ、ロブ・チャーチル共著、松田和也訳

『ヴォイニッチ写本の謎』 ゲリー・ケネディ、ロブ・チャーチル共著 松田和也訳 青土社、2,940円 ある西洋写本がある。わけのわからないものが描かれている。浴槽のようなものに浸かった女性たち、黄道十二宮図らしきもの、植物。だがその植物はよく見るとこ…

『醜い日本の私』中島義道著

『醜い日本の私 (新潮選書)』中島義道著 新潮社1,050円 中島義道。通称「戦う哲学者」。哲学の探究のため、言葉を武器に俗世間と戦い続けている。 この本は以前の著作『うるさい日本の私』の続編である。オビにはでかでかと「『美しい国』が好きなひとには、…

『ブックストア ニューヨークで最も愛された書店』リン・ティルマン著、宮家あゆみ訳

『ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店』リン・ティルマン著宮家あゆみ訳晶文社2,625円 いい本と出会うためには、いい書店が欠かせない。あらゆる種類の本がずらりと並んでいる大きな書店がいいわけではない。小さくても、書店スタッフによって選り…

『ムーミンのふたつの顔』冨原眞弓著

『ムーミンのふたつの顔』冨原眞弓著筑摩書房1,575円 ムーミンはカバではない。北欧の昔話に出てくる妖怪「トロール」をもとに、フィンランドの作家で画家でもあるトーベ・ヤンソンが創作したキャラクターだ。素朴なムーミン、冒険好きなムーミンパパ、しっ…

『古書修復の愉しみ』アニー・トレメル・ウィルコックス著、市川恵理訳

『古書修復の愉しみ』 アニー・トレメル・ウィルコックス著市川恵理訳白水社2,520円 壊れた本をどうするか。ページや表紙が破れたり取れたり、しみができたり変色したりした本だ。紙が発明されて以来、本は歴史や物語、公的記録、時には神の言葉を伝える物と…

『アラーの神にもいわれはない ある西アフリカ少年兵の物語』       アマドゥ・クルマ著、真島一郎訳

『アラーの神にもいわれはない―ある西アフリカ少年兵の物語』 アマドゥ・クルマ著 真島一郎訳 人文書院 2,520円 「アラーの神さまだってこの世のことすべてに公平でいらっしゃるいわれはない」が、このタイトルの意味だ。西アフリカの大西洋に面した国、リベ…

『ゆの字ものがたり』田村義也著

『ゆの字ものがたり> 田村義也著 新宿書房 3,150円 「田村義也は、装丁家ではないし、絵かきでも図案家でもない、一個の編集者であるに過ぎない。」作家、安岡章太郎の言葉。 だが、この本の著者、田村義也は一個の編集者としてはあまりある業績を残した。19…