『さよなら僕の夏』
北山克彦訳
晶文社、1,680円
アメリカ文学の大御所レイ・ブラッドベリ。『華氏四五一度』など詩的な文章で書かれる作品はジャンルの枠を越える。彼は37歳のときの名作『たんぽぽのお酒』の続編を80歳代後半で書いた。それがこの『さよなら僕の夏』だ。
『たんぽぽのお酒』は、南北戦争の記憶がまだ老人たちから消えない1928年、古き良きアメリカの話。中西部イリノイ州の小さな町グリーンタウンが舞台だ。12歳の少年ダグラスの一夏をとおして町の住人たちの心が現れる。主人公が少年だというのに、多くの老人たちの老いや死への恐れや達観が描かれている。
『さよなら僕の夏』はブラッドベリが55年間、温めていた物語だ。前作から1年後、初秋のグリーンタウンとダグラス。グリーンタウンには気難しいクォーターメイン老人を筆頭に老人たちの集団がいる。ダグラスと仲間の少年たちは、ちょっとしたいざこざからクォーターメインと「戦争」をすることになってしまう。
「老人たちは僕らとは全く別の生き物だ。あいつらは僕たちの時間を盗んで成長させようとしてるんだ。僕らはぜったい成長して大人になんかならない」。頑固なクォーターメインも負けてはいない「反抗的な悪党どもめ、戦争だ!」と息巻く。
彼らは若さと老いを巡って世代間抗争を始めるのだ。ついにダグラスたちは、時間の進行を司る元凶として、町の中心にある時計台をバラバラにしてしまう。
「若さ」と「老い」の間に「時」が立つ。この2つはどんなふうに和解するのか。クォーターメインの友人は言う。
「あんたの若さは次にまわすのだよ。ほんのしばらくの間、わしらに貸し与えられているだけなんだからな」。
瑞々しい感性や詩的な語り口で老いや死という重いテーマを描く。ぜひ年配の人に読んでほしい。
(掲載:『望星』2008年1月号、東海教育研究所)