本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

2008-01-01から1年間の記事一覧

『サンパウロへのサウダージ』クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著、今福龍太訳

『サンパウロへのサウダージ』 クロード・レヴィ=ストロース、今福龍太著 今福龍太訳 みすず書房 4,200円 2008年11月で100歳になった学者クロード・レヴィ=ストロース。1960年代、フランスにて構造主義をかかげて新たな民族学をうちたてた。構造主義は現代…

『図書館 愛書家の楽園』アルベルト・マングェル著、野中邦子訳

『図書館 愛書家の楽園』 アルベルト・マングェル著 野中邦子訳 白水社 3,570円 日本語で図書館と訳される英語Libraryは、ただ図書館をさすだけでなく、本を集めてある状態、または場所のことも意味する。書斎や書庫、鞄に入った数冊の本、コロンビアでロバ…

『阿部謹也 最初の授業・最後の授業 附・追悼の記録』阿部謹也追悼集刊行の会編

『阿部謹也最初の授業・最後の授業―附・追悼の記録 』 阿部謹也追悼集刊行の会編 日本エディタースクール出版部 2,520円 歴史家、阿部謹也氏は日本の歴史学界の大きな星だった。ドイツ中世史を中心に幅広く歴史を見つめてきた。1935年生まれ。一橋大学で長く…

『〈不在者〉たちのイスラエル 占領文化とパレスチナ』田浪亜央江著

『〈不在者〉たちのイスラエル―占領文化とパレスチナ』 田浪亜央江著 インパクト出版会 2,520円 1948年5月、イスラエルは独立を宣言した。ユダヤ人にとって喜びのその日は、パレスチナに住んでいたアラブ人にとってナクバ(大災厄)の日となった。ユダヤ人の…

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』大西成明著

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』 大西成明著 協同医書出版社・編集協力 ランダムハウス講談社・発行、2,940円 リハビリテーションとは「本来あるべき状態への回復、再生」などの意味がある。病気で失われた感覚や身体を取り戻す。ま…

『死に魅入られた人びと ソ連崩壊と自殺者の記録』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、松本妙子訳

『死に魅入られた人びと―ソ連崩壊と自殺者の記録』 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著 松本妙子訳 群像社、2,100円 1991年、ソ連が崩壊した。共産党一党独裁下の社会主義体制と15の共和国からなる連邦体制は崩れ去った。国民は資本主義という未知の体制…

『鉄腕ゲッツ行状記 ある盗賊騎士の回想録』ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著、藤川芳朗訳

『鉄腕ゲッツ行状記―ある盗賊騎士の回想録』 ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著 藤川芳朗訳 白水社、2,625円 「騎士」といえば弱きを助け悪をくじく、というイメージが離れない。だが中世も終わる頃、騎士道華やかなりし時代は遠くなった。ゲッツ・フォン・…

『東アジアに新しい「本の道」をつくる』『本とコンピュータ』編集室編

『東アジアに新しい「本の道」をつくる―東アジア共同出版(日本語版)』 『本とコンピュータ』編集室編 トランスアート 2,000円 日本、朝鮮半島、中国、台湾はかつて漢字を母字としており、やわらかな紙に木版印刷した本が行き来していた。これをブックロード…

『快楽の本棚 言葉から自由になるための読書案内』津島佑子著

『快楽の本棚―言葉から自由になるための読書案内 (中公新書)』 津島佑子著 中央公論新社 798円 有名な小説家だったという父親をおぼえていない子ども。教育ママだった母親は、子どもを父親のいた文学の世界に近づけまいとした。しかし子どもは、そんな危険で…

『中世ヨーロッパの書物 修道院出版の九○○年』箕輪成男著

『中世ヨーロッパの書物―修道院出版の九〇〇年』 箕輪成男著 出版ニュース社 3,150円 世界的ベストセラーになったウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』は中世北イタリアの修道院が舞台。そこはキリスト教世界最大の蔵書を持ち、また修道士が写本を筆写、…

『ぼくが見てきた戦争と平和』長倉洋海著

『ぼくが見てきた戦争と平和』 長倉洋海著 バジリコ 1,890円 フォト・ジャーナリスト長倉洋海氏の写真で心惹かれるのは、人々の笑顔だ。屈強なイスラム戦士が、苦境にある人々が、笑顔をはじけさせている。この写真を撮っている人も笑顔をうかべているんだろ…

『百年の愚行』小崎哲哉ほか編

『百年の愚行 ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY [普及版]』 小崎哲哉ほか編 紀伊国屋書店 2,520円 1枚の写真。海辺で抱き合う恋人たち。その足下はごみだらけ。だが、彼らはそれに気づかない。今の地球と人類を象徴するような光景だ。 この本は、そんな人類の愚…

『酒づくりの民族誌 増補―世界の秘酒・珍酒』山本紀夫編著

『酒づくりの民族誌 増補―世界の秘酒・珍酒』 山本紀夫編著 八坂書房 2,520円 酒はおいしい。酒は楽しい。味わうは快感。酩酊は極楽。 この本はワインやウイスキーなどの高級酒ではなく、世界の民族の地酒、主に家でつくる酒、その数30以上を取り上げる。そ…

『女子の古本屋』岡崎武志著

『女子の古本屋』 岡崎武志著 筑摩書房 1,470円 女性店主の古本屋さんがある。古本屋はこれまで「女には向かない職業」とされてきたので、ワクワクである。この本は13店の古本屋とそこの女性店主を紹介している。 20から50代の方たちだが、皆さんそれぞれ何…

『無国籍』陳 天璽著

『無国籍』 陳 天璽著 新潮社 1,470円 著者、陳天璽はある日、在日台湾華僑の両親といっしょに台湾を訪れた。しかし日本で生まれ育った彼女だけ、ビザが無い、と入国を拒否された。しかたなく日本へ戻ると、再入国許可の期限切れ、とまた入国を拒否された。…

『Googleとの闘い 文化の多様性を守るために』ジャン-ノエル・ジャンヌネー著、佐々木勉訳

『Googleとの闘い―文化の多様性を守るために』 ジャン-ノエル・ジャンヌネー著 佐々木勉訳 岩波書店、1,680円 フランスの歴史学者にして、前フランス国立図書館長の著者ジャン-ノエル・ジャンヌネーは警告する。2004年、アメリカの世界最大のインターネット…

『ミノタウロス』佐藤亜紀著

『ミノタウロス』 佐藤亜紀著 講談社 1,785円 この本は昨年出版されたもの。私は佐藤亜紀氏のデビュー作『バルタザールの遍歴』のころからのファンだ。出版されるとさっそく買って読み始めた。だが、あまりの、殺す、犯す、殺す、犯す、の連続にぐったりして…

『戦争を記憶する 広島・ホロコーストと現在』藤原帰一著

『戦争を記憶する―広島・ホロコーストと現在 (講談社現代新書)』 藤原帰一著 講談社 714円 さまざまな国やさまざまな人が合意する歴史認識をつくりあげるのは絶望的なほどに困難なことだ。第二次世界大戦については、それぞれが忘れてはいけない記憶として語…

『古本屋を怒らせる方法』林 哲夫著

『古本屋を怒らせる方法』 林 哲夫著 白水社 2,100円 趣味が「古本探し」「古本屋めぐり」というと本好き上級といったところだろう。だが、さらなるつわものの古本好きは古本屋をまわって本を探すだけではない。古本屋から蔵書目録を取り寄せ、各地の古本市…

『ユージン・スミス 楽園へのあゆみ』土方正志著

『ユージン・スミス―楽園へのあゆみ』 土方正志著 偕成社 1,470円 ユージン・スミスは太平洋戦争から日本の水俣公害までさまざまな渦中のなかの人々を写してきたフォト・ジャーナリスト。今も世界の多くの写真家の尊敬を集めている。この本は別冊東北学編集…

『アストリッド・リンドグレーン 愛蔵版アルバム』ヤコブ・フォシェッル監修、石井登志子訳

『アストリッド・リンドグレーン―愛蔵版アルバム』 ヤコブ・フォシェッル監修 石井登志子訳 岩波書店、7,560円 子どものころ、『長くつ下のピッピ』が大好きだった、という人は多いだろう。赤毛でそばかすだらけの世界一強い女の子。ほかスウェーデンの田舎…

『畏れ慄いて 』アメリー・ノートン著、藤田真利子訳

『畏れ慄いて』 アメリー・ノートン著 藤田真利子訳 作品社、1,575円(品切れ) 会社員なら誰でも最初は、会社の掟の不条理に、「どうして?」と思う。だがやがてそれにからめ取られ、そして、からめ取られていることすら忘れてしまう。 その不条理を皮肉と…

『死を生きながら イスラエル1993-2003』デイヴィッド・グロスマン著、二木麻里訳

『死を生きながら イスラエル1993-2003』 デイヴィッド・グロスマン著 二木麻里訳 みすず書房、2,940円 朝、父親が息子を起こすと、訊かれる。「今日のテロってもう、起きたの?」。若いカップルが将来について話し合う。「結婚して3人子どもをもつ。そうし…

『魂との出会い 写真家と社会学者の対話』大石芳野・鶴見和子著

『魂との出会い―写真家と社会学者の対話』 大石芳野・鶴見和子著 藤原書店 3,150円 鶴見和子氏、社会学者。西洋の「対立、伝統の破壊」の社会に対し、アジアの視点からの地域発展論「内発的発展論」で、「共生、伝統の継承」の社会を唱えた。柳田国男や南方…

『琉球布紀行』澤地久枝著

『琉球布紀行』 澤地久枝著 新潮社 2,310円(絶版) 『琉球布紀行 (新潮文庫)』 澤地久枝著 740円 沖縄島を中心として広がる鹿児島県下の島々から台湾近くの島々は、琉球弧と呼ばれる。本土とは違った文化を持つ。この島々にはまた独自の織り、染め、模様の…

『緑の影、白い鯨』レイ・ブラッドベリ著、川本三郎訳

『緑の影、白い鯨』 レイ・ブラッドベリ著 川本三郎訳 筑摩書房、3,675円 1953年、33歳のレイ・ブラッドベリはアイルランドを訪れた。税関で訪問理由を問われると彼は言う。 「狂気です。2種類あります。文学的狂気と心理学的狂気です。まず、私がここに来た…

『アレクセイと泉』本橋成一撮影・著

『アレクセイと泉』 本橋成一撮影・著 小学館、3,570円 1986年にウクライナで起こったチェルノブイリ原発事故では、隣国ベラルーシも放射性物質に汚染され、広い地域が住むには危険な地域になった。たくさんの子供たちが放射能に侵され、死んだ。その地域の…

『書肆アクセスという本屋があった 神保町すずらん通り1976—2007』岡崎武志・柴田信・安部甲 編著

『書肆アクセスという本屋があった―神保町すずらん通り1976-2007 』 岡崎武志・柴田信・安部甲:編著 発行:「書肆アクセスの本」をつくる会、発売:右文書院、1,200円 東京の神田神保町の靖国通りを脇道に入ると、すずらん通りという小ぶりな通りがある。個…

『パレスチナ問題』エドワード・W・サイード著、杉田英明訳

『パレスチナ問題』 エドワード・W・サイード著 杉田英明訳 みすず書房、4,725円 著者エドワード・W・サイード、パレスチナ人。文学研究者、文学批評家。2003年9月、ニューヨークで亡くなった。白血病を患い、長い闘病生活の末のことだった。 サイードはエ…

『デジグラフィ デジタルは写真を殺すのか?』飯沢耕太郎著

『デジグラフィ―デジタルは写真を殺すのか?』 飯沢耕太郎著 中央公論新社 1,575円 最近は、カメラと言えば当然のようにデジタルカメラのことだ。だが、光によって画像をフイルムに焼き付けるアナログカメラの写真と、電気信号によってデジタルデータとして保…