本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『女子の古本屋』岡崎武志著

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女子の古本屋

岡崎武志

筑摩書房

1,470円

 

 女性店主の古本屋さんがある。古本屋はこれまで「女には向かない職業」とされてきたので、ワクワクである。この本は13店の古本屋とそこの女性店主を紹介している。

 20から50代の方たちだが、皆さんそれぞれ何度も転職し、何度も転んで苦い水を飲み、そして何かに引かれるように古本屋を開業し、営業が軌道に乗るようになった。ただの文学少女のなれのはてではないのだ。

 例えば、仙台にある古書カフェ「火星の庭」の店主、前野久美子さんはすごい。18歳で調理師学校へ進学し調理師免許を取る。そして太宰治の生家、斜陽館へ「働かせてください」と飛び込む。しかし月給75,000円。そこで1年働くが、ある日、雑誌で六本木で京料理の店がオープンする記事を見つけ、雇ってほしいと訪ねていく。そしてその店を切り盛りすることになる。そこで1年。その後、今度はドイツの料理店で2年働き、故郷に帰る。しかし、すでに父親とは絶縁状態。仙台でホステスになるが体を壊し入院。退院後、出版社で働く。こんな猛スピードで20代が過ぎた。そしてパートナーと出会い、二人でヨーロッパを半年かけて巡る。ここでたくさんのブックカフェに出会う。書店勤めを経て1999年に仙台で古書カフェ「火星の庭」をオープンした。「やりたい」ではなくすぐ「やる」、迷いのない人生。「火星の庭」は半分が古本屋、半分がカフェ。古書もメニューも充実している。

 一方、西荻窪の古本屋「興居島屋(ごごしまや)」の店主、尾崎澄子さんは古本店主とシルクスクリーン制作の二足のわらじを履いている。デザイナーを志し広告会社に入ったものの劣悪な仕事環境から1年で辞めた。25歳を目前に上京。多くのアーティストを輩出している「美學校」に通いシルクスクリーンを学ぶ。しかし結婚、夫に引きずられるような形でいっしょに古本屋を開業する。やがて夫と離婚。経営上のパートナーというかたちで今もつきあっている。シルクスクリーン制作は夫の姓の石丸澄子の名前を使う。そして昼12時から夜11時までは「興居島屋(ごごしまや)」を開き、閉店後、シルクスクリーンの図案を練る。

 13人の女性店主を見るに老舗古書店で長年修行のうえ独立、という人はほとんどいない。異業種の経験があるからこそ、新しい店をつくることができるのかもしれない。たくさんの女性が、自分だけの小さな店を持ちたい、という夢を見ている。そのなかで13人の女性たちは「自分は古本屋という道で生きるんだ」という決意で古書業界に飛び込んだ。著者岡崎武志はこんな言葉を引いている。「『価値のあるもの』を買うのではなく、『自分で価値を作れる』人間は強い」。

 いろいろな店主が増えて、古本屋がもっと多様な、もっとなじみになれるところになればいい。