本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション』大西成明著

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大西成明写真集 ロマンティック・リハビリテーション

大西成明著

協同医書出版社・編集協力

ランダムハウス講談社・発行、2,940円

 

 リハビリテーションとは「本来あるべき状態への回復、再生」などの意味がある。病気で失われた感覚や身体を取り戻す。または残った力で障害とともに生活するために適応していく。それは本人の心をも変えるのだ。

 この本の著者で写真家、大西成明は20人のリハビリテーションに関わる人々を訪ね、それぞれの再生を撮し彼らの言葉をつづる。

 ピアニスト、舘野泉は脳溢血で右半身の感覚を失った。だが音楽から離れることができなかった。そこで左手だけで弾けるようにアレンジした曲で演奏を続けている。「音楽に必要なものは何一つなくなっていなかったんだね」。

 整形外科医、ノンフィクション作家の山田規畝子は高次脳機能障害。思考力は落ちていないが行動に障害があらわれる。脳が壊れて世界が変わったという。壊れた脳と共に生きつつ、高次脳機能障害への理解を呼びかけている。「私のように二つの世界に足を突っ込んでいる人間が結構お役に立てるんです」。

 免疫学者、多田富雄脳梗塞で右半身が麻痺。話すことも食べ物を飲み下すこともままならなくなった。国のリハビリテーション医療費の削減に怒りを燃やす。障害をもったとき、自分自身のものだけとは思えない多くの無名の怒りが宿った、と感じた。左手でパソコンを打つ。「巨悪に向かって足を失った者は手で這って進み、手をもがれた者は大地を噛んで進む。歯を抜かれた者は眼光で見透かす。五体の半分の力を失った私のリハビリ闘争にはまだ左手の指と言葉という武器がある。私を滅ぼすことはできない」。

 他にアルコール中毒、薬物中毒の人々、義肢装具士岩盤浴で体を癒すガン患者など、さまざまな人が自分を語る。

 世界とつながるための体。体と脳をつなぐ五感。人によって感じる世界は違う。そのつながりの変化から人は別な世界を発見する。リハビリテーションとは世界で生きるための再生。

(掲載:『望星』2008年10月号、東海教育研究所)