
『
和本入門 千年生きる書物の世界
』
橋口候之介著
平凡社
2,310円
江戸時代、日本の出版文化が花開いた。それまで中国の本の翻訳本が大多数だったのが、江戸時代になると日本人の筆者によるものが増え、仏書、
漢籍から庶民の読み物までに広がった。読書が多くの人々の楽しみになった。和本の発行は明治初期まで続けられ、今日あるような洋本にとって代わられた。和本は日本の歴史的史料にして芸術品とも言える。
著者、橋口候之介は和本・文科系
学術書の専門
古書店である神田の誠心堂書店の店主だ。岳父が1935年に開いた店である。1974年の入店以来、
1984年に店主になってからも、和本の古書を商ってきた目利きだ。この本では、専門家に偏りがちは和本の世界をふつうの人に広げて見せ、丁寧に解説する。
和本の出版は、活字一つ一つをページに組んでいく
活版印刷に始まった西洋とは違い、ページ1枚に一つの版木を彫る
木版印刷が主流だ。版木は百年以上も保つので何度となく増刷された。
江戸時代の18世紀中頃、出版物の巻末に刊行年月日や発行者を記す、いわゆる奥付が、
大岡越前守が定めた出版条目によって制度化された。ふつうはこの奥付を見れば何年に発行されたかわかることなのだが、とんでもない落とし穴がある。版木が長持ちしたため、人気のある本は何回でも増刷されたのだが、発行年月日は初版のままで何十年も発行されてしまった。版木はだんだんすり減っていくので初版と増刷版が
古書市場に出ると、値段が大きく違ってくる。このあたり目利きの眼力がものをいう。著者たちのような目利きのおかげで歴史的史料にして芸術品たる和本は守られているのだ。
日本には「魁星」という本の神様がいるそうだ。和紙は丈夫で長持ちする。きちんと保存すれば千年も保つ。この本は、和本について知りたい人に親切な教科書だ。
(掲載:『望星』2006年4月号、東海教育研究所)