本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『ブックストア ニューヨークで最も愛された書店』リン・ティルマン著、宮家あゆみ訳

01zhkchzp4l_aa90__1ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店
リン・ティルマン著
宮家あゆみ訳
晶文社
2,625円

 

 いい本と出会うためには、いい書店が欠かせない。あらゆる種類の本がずらりと並んでいる大きな書店がいいわけではない。小さくても、書店スタッフによって選りすぐられた珠玉の本があるのがいい書店だ。
 ニューヨークの書店「ブックス・アンド・カンパニー(本と仲間)」は、地元の人はもとより、スーザン・ソンタグポール・オースターウディ・アレンなど多くの知識人に愛された。アメリカでは大型チェーン書店のほかに、それぞれ特色のある独立系書店、いわば「我が街の本屋さん」があり、多様な文化の基盤となっている。この本は、ニューヨークの「我が街の本屋さん」ブックス・アンド・カンパニーと店主ジャネット・ワトソンの軌跡を多くの顧客やスタッフたちの証言でつづったものである。
 ジャネット・ワトソンは、1978年、ニューヨークのマディソン街に、この書店を開店した。書店経営について全くの初心者だった彼女は、優秀なスタッフたちに助けられて、悪戦苦闘しながら店を作り上げていく。店の名物「ザ・ウォール」では、壁一面の書棚に、シェイクスピアから現代作家にいたるまで古今の名作文学を網羅。また、定期的に作家の朗読会を開催。店は作家と読者をつなぐ文化サロンとなった。しかし家賃の値上がりと赤字のため、1997年、惜しまれつつ閉店した。
 スーザン・ソンタグは語る。「私は自分が手に入れたいとわかっている本だけを買いたい人間ではない。自分の知らない本や作家を発見したいのだ、すばらしい書店ではそれができる。」日本でも大型チェーン書店や新古書店などのため、「街の本屋さん」が苦境に立たされている。ベストセラーや雑誌ばかりでない、選り抜きのいい本を売るいい書店を応援したい。
(掲載:『望星』2003年6月号、東海教育研究所)