本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『本屋図鑑』得地直美 / 本屋図鑑編集部 著

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本屋図鑑

得地直美/本屋図鑑編集部 著

夏葉社

1,836円

 町の書店の存続危機が言われ始めて何年もたつ。最近は独立系書店が閉店になっていくのとうらはらに、蔦屋書店など大型書店チェーンの進出が目立つ。


 この本は、本と書店を愛する面々、1人で出版社夏葉社を経営する島田潤一郎氏と編集者の「空犬」氏が企画、島田氏が全国を旅し取材、「空犬」氏ともに執筆、イラストレーター得地直美氏が書店の店がまえから本棚の細部まで描いた緻密だけど素朴なイラストを描いた。「書店図鑑」とせずに「本屋図鑑」としたのは「本屋」という言葉への愛着ゆえ。


 町の大きな書店から小さな書店まで72もの本屋さん。なかには出版後に閉店してしまった神戸の海文堂書店もある。海事関係の本の品ぞろえで有名だった。自分の町の懐かしい我が家のような本屋さん。小さいけれども、すてきな本ばかりある本屋さん。私のお勧めの本屋さんは、鎌倉駅江ノ電口にある、たらば書房。一般の小説や雑誌もあれば歴史・哲学・心理学・評論など選びぬかれた学術書もある。ふつうの人に間口は広くマニアには奥行きは深い本屋さんだ。ほか、本好きのあこがれ神田神保町東京堂書店、選びぬかれた新刊書をぐるっと並べた新刊平台、通称「軍艦」もある。日本で一番南の本屋さんは石垣島にある山田書店。さらに南の島へ「少年ジャンプ」1冊でも届けに行く。本の流通システムや、戦後からの書店の歴史、書店業界用語辞典も書かれている。


 大型書店チェーンも独立系の小さな書店でも、良い町の本屋さんとは、ベストセラーと地域ならではの地方出版社の本を用意してお客さんを満足してもらい、なおかつ店がおもしろいと思って選んだ本を「こんな本はどうですか」と店頭に並べて、それをお客さんもおもしろいと思い興味をもって楽しむ店ではないだろうかと思う。本屋さんで本に出会う楽しみを店とお客さんが共有できれば最高だ。


 「町には本屋さんが必要です」と筆者たちは言っている。我が町の本屋さんがなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうのだ。

 

(掲載『望星』2014年2月号、東海教育研究所に加筆)