本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『イスラエル 兵役拒否者からの手紙』ペレツ・キドロン著、田中好子訳

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イスラエル 兵役拒否者からの手紙

ペレツ・キドロン著

田中好子

日本放送出版協会

1,470円

 

 イスラエルでは徴兵制がしかれている。18歳以上の国民は、男性が3年間、女性が1年9ヵ月の兵役につく義務がある。さらに予備役として、男性は45歳になるまで毎年3週間兵役につかなければならない。これは外を敵国に囲まれ、内ではパレスチナ人を敵とする国家、イスラエルの国民の神聖な義務とされる。国民は、最初の兵役を終えてはじめて完全な社会人と認められるのだ。

 しかし最近、この兵役を拒否する人々が増えてきている。パレスチナ人への非道な行動を命令する軍務には従えないと。

 兵役を拒否し投獄された元砲兵隊長が上官に宛てた手紙より。

 「私はイスラエル軍の実戦士官として、西岸地区およびガザでの軍務に服してきた。私は世の中がどんなものかを知っているつもりだ。生き残るために人を殺さなければならないときもある。イスラエル国家のために、私は石を投げてきた子どもたちを追いかけた。…外出禁止令を出した。…手錠をされた捕虜をジープに乗せて運んだ。暴徒に向けて発砲した。…これは避けられない戦争なのだと信じていた。今になってみると、平和を追い求めていたが何一つ達成できなかった。私たちは百を超える入植地を作ってきた。20万の入植者を送り出した。私たちは兵士を、子どもを、母親を亡くした。すべては国家防衛のためだった。すべては平和のためだった。新たな自爆者を出さないためだった。…もうたくさんだ。」

 この本にはこのような手紙が、かつての歴戦の兵士から、はじめての兵役に拒否する若者のものまで集められている。編集したペレツ・キドロンも、兵役拒否者の一人だ。命令に従って殺してしまってから後悔して泣くよりも、自分の良心に従おうとする人々。彼らの意志が、終わり無き流血を変えることができるか。

(掲載:『望星』2003年9月号、東海教育研究所)