『かくして冥王星は降格された―太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて』
ニール・ドグラース・タイソン著
吉田三千世訳
早川書房 2,100円
最初に学校で習ったとき、太陽系は、太陽と月と9つの惑星「水金地火木土天海冥」だった。ところが2006年8月、国際天文学連合は冥王星を準惑星と決め太陽系惑星グループから外した。
冥王星は、アメリカ人の発見した初めての惑星だ。1930年、アメリカ人天文学者クライド・トンボーが発見した。冥王星(英語でプルート)は、ミッキーマウスの飼い犬プルートとともにアメリカ人から深く愛されてきた。
現在の天文学では、惑星には地球、水星、金星、火星のような岩石でできた地球型惑星と木星、土星、天王星、海王星のようなガスでできた木星型惑星があるが、冥王星にはどちらも当てはまらない。ほとんど氷でできているのだ。大きさも、月や土星の衛星タイタンなどより小さい。また海王星の外にはカイパー・ベルトという小型の氷天体がひしめく帯があることがわかってきた。冥王星はカイパー・ベルト天体の方に近いと思われた。こうした研究結果から、2000年、この本の著者、アメリカ自然史博物館のヘイデン・プラネタリウムの長を勤める宇宙物理学者タイソンは自館の展示の模様替えの際、冥王星を惑星のグループからカイパー・ベルトのグループに入れた。
これが新聞に取り上げられ「冥王星を惑星から引きずり下ろすな」という抗議のメールが、アメリカ中からタイソンのもとに押し寄せた。小学校では子どもたちが「大好きな冥王星を惑星にしておいて」と手紙を送ってきた。天文学者たちは、冥王星とは何か、惑星とはどういう特徴をもつ天体なのかを巡って激しい議論を戦わせた。
2006年、国際天文学連合の決定で冥王星は準惑星となった。アメリカでは、冥王星の「降格」を皮肉る記事が書かれ、かわいそうな冥王星に同情する歌が作られた。ディズニー・カンパニーは「冥王星が惑星の地位を追われたとしてもプルートはやはりディズニーの『犬のスター』だ」と公式なプレスリリースを発表した。
「冥王星騒動」は収まったようだ。新しい事実が発見されれば、宇宙の姿はまた変わるだろう。そのとき感傷的にならず理論で受け入れることができるだろうか。
この騒動のあと、著者タイソンはディズニーワールドを訪れ、犬のプルートに面会した。プルートは礼儀正しく迎えた。本には著者とプルートが仲良く肩を組んだ写真が載っている。
(掲載:『望星』2009年11月号、東海教育研究所に加筆)