本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『『話の話』の話 アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン』クレア・キッソン著、小原信利訳、ユーリー・ノルシュテイン跋

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『話の話』の話―アニメーターの旅 ユーリー・ノルシュテイン

クレア・キッソン著、小原信利訳

ユーリー・ノルシュテイン

未知谷、3,150円

 膨大な数の絵によって、絵を動いているように見せる「動画」すなわち「アニメーション」。その動く絵を描く人を「アニメーター」という。今、日本政府は、アニメを金の取れる輸出産業ともてはやしている。だがそれを作るアニメーターが長時間労働低賃金の悲惨な生活をしているのはあまり知られていない。

 ユーリー・ノルシュテインはロシアのアニメーター。『アオサギとツル』『霧の中のハリネズミ』などの主に30分以内の短編を作ってきた。切り絵アニメーションといって、切り絵を少しずつ動かして撮影するという手法をとっている。その世界は素朴で詩情豊か。抑えた色調と流れるような動きで世界を紡ぎだす。

 ノルシュテインの代表作『話の話』。1979年の発表以来、世界のアニメーションで第1位の座に推されている。1980年、ザグレブ国際アニメーションフェスティバルで1位になったほか、さまざまな賞を獲得した。

 『話の話』とはどんな話なのか一概には言えない。古いロシアの子守歌

ねんねんころり、端っこには寝ないでね、灰色の仔狼がやってくるから」

をもとに、ノルシュテインの幼い頃の思い出、第2次世界大戦後の時代をちらつかせる映像が現れては消える。ひとりぼっちの狼の子、無心に乳を吸う赤ん坊、タンゴを踊る人々、戦争の暗示。これを発表前に見た当時ブレジネフ政権下のソ連の官僚たちは面食らった。ソ連国民を導くのに良い映画なのか。ソ連映画省はノルシュテインに改変の圧力をかけたが、彼は断固として応じなかった。

 『話の話』制作後、現在ノルシュテインは忙しいなかゴーゴリの小説『外套』のアニメーションを制作中だ。

 ものを作る人を大切にしない文化は滅ぶ。ノルシュテインのような「作る人」を尊敬してやまない。

(掲載:『望星』2009年3月号掲載、東海教育研究所)