本のいぬ

本のあいだをふらふら歩く、 のらいぬ澤 一澄 (さわ いずみ)の書評ブログ

『私のフォト・ジャーナリズム 戦争から人間へ』長倉洋海 著

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私のフォト・ジャーナリズム 戦争から人間へ

長倉洋海

平凡社 945円

 フォト・ジャーナリスト長倉洋海氏の写真は人々の笑顔であふれている。世界各国の戦火や貧困に苦しむ人々も笑顔なのだ。なぜ長倉氏は苦しんでいる人の笑顔を撮ることができるのか。その笑顔は愛想笑いではなく、心からうれしい時の笑顔、心を許した相手に向ける笑顔だ。長倉氏はどんな人も心を許し笑顔にさせる不思議な人なのではないだろうか。

 長倉洋海氏は1952年生まれ。通信社勤務を経て、1980年にフリーランス写真家となる。戦場写真家を目指し世界の戦場の最前線を駆け回った。アフリカのローデシア(現ジンバブエ)、中東のレバノンそしてアフガニスタン。前線を奔走したものの、求める写真は撮れずマスコミにも評価されなかった。

 1982年、中米のエルサルバドルへ飛ぶ。戦場で死体を撮るうちに、そこで生活している人々の涙と喜びにふれ、自分に感動を与えるのは死体ではなく生きている人間そのものなのだ、と気づいた。

 1983年アフガニスタンで自分と同じ歳のゲリラのリーダーがソ連軍と戦っていると知り現地へ飛び、その人マスードに熱弁をふるい長期の同行取材を申し込んだ。マスードは快く受け入れ、以来、長倉氏とマスードは長い友情を育んだ。長倉氏の撮るマスードは知的で思慮深く穏やかだ。ほかのゲリラたちも若者らしい悲喜こもごもが写しだされている。2001年、マスード暗殺を知り、ゲリラたちと心から泣いた。

 また、エルサルバドル難民キャンプで会った少女ヘスースとの長い交流もあった。彼女が3歳の時から母親になるまで、父親のような気持ちで温かく見守った。

 苦境の人々と心をともにし、その生活を写真で世界に伝える。それが長倉洋海氏のフォト・ジャーナリズムだ。人に共感する心が、長倉氏の写真の源なのかもしれない。

(『望星』2011年2月号掲載、東海教育研究所)